本研究の目的は、近年重要性が高まっている知識集約型企業(Knowledge-Intensive Firms)における人的資源管理の特性と、それが知識労働者(Knowledge Workers)の活動やキャリア発達に与える影響を明らかにすることである。 本年度の活動として、重要文献をレビューしたうえで、ソフトウェア開発企業、コンサルティング・ファーム、シンクタンクの人事部門に対するインタビュー調査を行った。その結果、知識集約型企業の人的資源管理は1.個人の自律性を重視するか組織活動を重視するか、2.競争的な評価・報酬・昇進制度をどの程度取り入れるか、という二つの基準を中心に、いくつかのタイプに分かれることがわかった。そしてそのような多様性の背景には、1.事業内容や仕事の複雑・不確実性、2.使用する知識の企業特殊性、3.特定顧客との結びつきの強さ、4.組織規模他があることも明らかになってきた。 また人的資源管理が異なれば、そこで働く知識労働者の行動やキャリアが異なることが予想されるわけであるが、本研究では特に、知識労働者の定着、相互作用、キャリア志向について分析を行った。その結果、困難な仕事や競争的な人的資源管理など、従業員にとって厳しい環境の企業において、従業員の定着、相互作用、望ましいキャリア志向の形成が促進されていることも明らかになっている。従来は、組織志向で年功的な人的資源管理が人の定着や相互作用を促すと考えられていたが、それとは異なる傾向がみられたことになる。そのため、今後はそれに対するより詳しい検証が必要であると思われる。これらの結果をまとめ、学会報告を行った。
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