本年度は在英日系企業も含めた7組織への聞き取り調査を中心に研究を進め、最終年度としてのとりまとめを行った。従来、組織設計にあたって当然視された、組織にあう人を選別することに加えて、「人にあわせた職場」の提供という発想を組織が持つことによって、ワーク・ライフ・バランス(以下、WLB)を達成しやすい職場を設計できるという仮説をもち研究を進めてきたが、現状では、「人にあわせた職場」の提供は、まだまだなされていないと結論づけざるを得なかった。 WLBを達成しやすい職場の構築には、社員は「時間制約」のある人材(佐藤博樹・武石恵美子(2011)『ワーク・ライフ・バランスと働き方改革』勁草書房)であるという認識とともに、そうした社員を前提とした、従来の働き方に代わる新しい働き方が不可欠であるという意識変革が必要となる。意識変革への挑戦は続けられてはいるものの、これまでの仕事の進め方が、意識変革を行動に結びつけることを阻害している。その特徴は、①仕事の結果とともにプロセスも重視する視点、②職務範囲の不明確さと職務との切り離れの悪さ、③他者評価に依存した仕事の到達点、であり、これらにより「時間制約」のある社員がやるべき事を終えれば職場を離れられるという状況が生まれにくくなっている。もちろん、こうした働き方には、これまでそうであったように、組織一丸となって成果を上げていける強みがあることも事実であり、それゆえに、慣性力が働く組織では新しい働き方への変革は進みにくい。 新しい働き方を実践し、「人にあわせた職場」の構築がうまく進んでいる組織は、部下の事情に応じた柔軟な管理を管理者が行っている特徴があり、制度の導入だけでは望ましい変化の達成はなされていない。上述した通り、こうした管理が行われ「人にあわせた職場」へと変革している事例はまだまだ少ない。
|