研究課題/領域番号 |
23530542
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
里村 卓也 慶應義塾大学, 商学部, 教授 (40324743)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 消費者選択行動 / ブランド選択 / コンジョイント分析 / ブランド識別 / ブランドの類似性 / 拡散モデル |
研究概要 |
消費者の選択行動に関して2つの研究を行った。ひとつめの研究では、合理的消費者を仮定した需要制限付き複数選択モデルの構築と実証分析によるモデルの有効性の確認を行った。提案モデルでは、予算制約や定和配分など需要が制限されるもとで、複数個数・複数代替案の選択を行う意思決定を対象としている。従来このような行動データを分析するためには、データを変換するという便宜的な手法が利用されて、複数選択・需要制約という条件を考慮していなかった。提案手法は複数選択・需要制約を合理的消費者行動から理論的に導いた統計モデルであり、従来手法と比べて理論的な優位性がある。さらに実証分析では価格や製品属性を変化させて被験者に選択させるコンジョイント分析の方法によりデータ収集を行い、モデルの推定を行った。この結果、提案モデルがデータへの当てはまりと予測力が高いことが示され、実際の消費者の行動を表現するモデルとしてもよいことが示された。もうひとつの研究では、パッケージの類似性に起因する消費者のブランド混同を理解するための、認知心理学をもとにした消費者判断モデルの構築と実証分析を行った。この研究では、類似したパッケージ画像を識別する消費者の判断を拡散モデルと呼ばれる認知心理学のモデルを利用して表現した。さらにパッケージの画像情報を定量的に表現し、この数値を用いてパッケージ間の類似度を客観的に評価した。ブランド識別をタスクとする実証分析では消費者の応答速度と正確性を記録し、提案モデルを用いてパッケージ画像の類似性がブランド混同に及ぼす影響を定量的に評価した。また、これら二つの研究における実証分析のためのデータ収集は国外の大学の協力のもとそれらの設備を用いて実施したが、来年度からは日本でもデータ収集を行うため、これに必要なシステムを構築を行い実験に必要な準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画よりやや遅れていると判断する。これは計画目標の達成に向けて、今年度は理論モデルの基礎的部分の見直しとデータ収集を追加的に行ったためである。これらの付加的作業は、今後の研究目的の遂行に必要なことであり、研究期間内での目標達成に影響はないものと考える。合理的消費者行動モデルでは、価格・製品以外のマーケティング・ミックスの選択への影響をとりこむ予定であった。しかし、共同研究者と協議した結果、我々が本研究に先行して行った複数選択モデルを分配型問題に適用し基礎的部分を充実させることが必要であるとの判断から、まずはこのテーマについて米国オハイオ州立大学でデータ収集を行い研究をすすめ、論文を作成した。認知心理学的モデルについても共同研究者と協議した結果、拡散モデルによる選択行動分析を考える前に、この研究のもととなるブランド混同のモデルについて数理モデルを修正しデータを収集し直して分析したほうがよいと判断した。そこで研究計画に加えて、モデルの見直しを行い、オランダ王国ティルバーグ大学でデータ収集し再度のデータ収集と分析を行った。この結果をもとに論文の修正を行った。これらと並行して、二つのタイプの消費者選択モデルを分析するためのシステム構築を行い、刺激提示方法やデータ収集方法について検討するためにテスト・ランを行った。これについては計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き2つのタイプの消費者選択行動のモデルを作成し、モデルの有用性について確認するための実験とデータ分析を行う。マーケティング・ミックスを考慮した構造的消費者選択行動モデルについては、理論モデルの構築と実証分析によるモデルの有用性の検証を進める。認知的メカニズムによる選択行動モデルについては、類似性判断に加えて消費者の選択行動を分析するために、拡散モデルを発展させる。平成24年度はマーケティング・ミックスを考慮できる構造的消費者行動モデルの構築と、有用性を検証するためにデータの収集を行う。さらに認知的構造を持った選択モデルの開発を行う。マーケティング・ミックスを考慮できる消費者行動モデルの実証分析のためのデータ収集を行う。前年度に整備された実験環境を利用して、被験者を募集してデータ収集に取り組む。実験はノートPCと心理学実験用ソフトウエアを利用する。収集されたデータをもとにモデルの推定を行い、提案モデルの妥当性について検証する。推定には個人別パラメータの推定のためにベイズ・モデルを利用する。この手法は膨大な計算量を要するため、専用ワークステーションを準備する。この結果をもとに論文の作成と投稿を行う。さらに認知的構造を持った選択モデルの開発を開始する。このために共同研究者と米国メリーランド大学で研究の打ち合わせを行う。平成25年度は認知的構造を持った選択モデルのデータ収集を行い、実証分析を行う。実験はノートPCと心理学実験用ソフトウエアを利用する。実証分析のためのデータ収集し、これをもとにモデルの推定を行い、提案モデルの妥当性について検証する。論文の作成と投稿を行い、研究成果の報告をマーケティング・サイエンス国際学会で行う。また3年間の研究成果を総括し、成果報告書を作成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額の176,650円については資料収集のための国内旅費が発生しなかったこと、実験補助を研究代表者が利用しなかったことに主に起因する。次年度の研究費は1,477千円の使用を計画しており、詳細は次のとおりである。物品費として720千円。内訳は設備備品として分析用ワークステーションHP Z400 workstation 260千円、消耗品として実験用コンピュータ追加 HP Pavilion dv7 150千円、心理実験用ソフトMediaLab+Direct RT アップグレード+アカウント追加 150千円、マーケティング関連書籍 150千円、レーザープリンタートナー 8千円、コピー用紙 2千円である。旅費として458千円。内訳は国内旅費として日本マーケティング・サイエンス学会(名古屋大学)での資料収集として38千円、 国外旅費としてメリーランド大学での研究打ち合わせのため420千円である。謝金等として270千円。内訳は実験参加者報酬(1500円/人×60名)として90千円、実験補助(900円×120時間)として108千円、資料整理(900円×80時間)72千円である。その他として29千円。内訳は通信費として2千円、会議費として10千円、近隣交通費として14千円、印刷費として3千円である。
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