研究課題/領域番号 |
23530562
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
櫻田 譲 北海道大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (10335763)
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研究分担者 |
大澤 弘幸 新潟経営大学, 経営情報学部, 准教授 (30468962)
大沼 宏 東京理科大学, 経営学部, 准教授 (00292079)
加藤 惠吉 弘前大学, 人文学部, 教授 (70353240)
中島 茂幸 北海商科大学, 商学部, 教授 (80438390)
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キーワード | 無形資産 / 金融所得 / 損益通算 / 資本剰余金配当 / 資本維持 / 証券優遇税制 / イベントスタディ / 移転価格税制 |
研究概要 |
平成24年度の研究成果は以下の3つに分類される。 1つ目として研究代表者と研究分担者の内、大沼・加藤両氏の3名によって前年度から引き続き移転価格税制についての新聞報道と企業評価の関連性について検証を行っている。研究成果は日本管理会計学会2012年度年次全国大会(平成24年8月26日 於国士舘大学)において報告を行った。前年度までに移転価格税制に関する新聞報道は投資家による強いマイナス評価を被ることを実証している。この結果を受けて平成24年度は資本市場の反応を累積させた累積超過収益率(Cumulative Abnormal Rate of Return :CAR)を利用し、当該指標に対して法人のいかなる経営・財務属性が反応を引き起こす原因となるのかについて統計的に検証した。その結果、無形資産や実効税率および企業統治に関する変数等がこれらの反応と有意に関係することが確認された。 また2つ目の成果として、平成20年度証券税制が投資家にいかなる影響を与えたのかについてイベントスタディによって検証した。そして分析対象法人の財務状況に応じて当該証券税制改正報道の株価に対する感応度の相違を突き止めている。本研究は当該証券税制の改正に注目し、当該情報の資本市場への投入を契機として高配当性向法人が好感されると予想した。分析結果によれば、高配当性向法人はPBRや流動比率が悪化するほど高評価され、他方低配当性向法人は利益成長性が悪化しても固定長期適合率が相対的に高く維持されていれば高評価されることが判明した。 3つ目に資本剰余金を原資とした配当を行った場合の資本市場の反応をイベントスタディによって分析した。資本剰余金配当は債権者保護の観点から問題含みの制度である一方で投資家は歓迎を示すとの結果を導出した。しかし実際のところ当該制度が乱用されないのは課税の仕組みによると結論づけている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度における研究成果であり、第20回租税資料館賞を受賞した研究成果「外国子会社利益の国内還流に関する税制改正と市場の反応」から発掘された新たな課題を検討した結果、新たな論文(「投資家行動における判断基準の推移-外国子会社利益の還流に関する税制改正を題材として-」)が作成されるに至った。その研究成果によれば海外進出法人の株価を上昇させたと考えられる2つの類似する新聞報道に注目し、当該2つの報道によって共にイベントに対してポジティブ反応を示したことを明らかにした。その上でポジティブ反応の原因がそれぞれに異なることをも解明している。この研究成果によって本研究助成の核心的課題の検討において進捗がみられたと考えている。 また平成24年度において獲得した研究成果の内、上記成果とは別に資本剰余金配当を行う法人の債権者保護上の問題点と課税関係に関連する研究成果は、第35回日税研究賞(平成24年度)「研究者の部」入選に輝いている。また当該成果の導出過程に於いて執筆された論文は査読を通過し、『年報 経営ディスクロージャー研究』第11号への掲載が決定している。このように上記研究成果の導出によって、平成24年度は2度の研究助成前倒し支払請求を行った。 本研究計画は平成25年3月末で4年の期限の内ちょうど折り返し地点を通過したことになるが、平成23年度の第20回租税資料館賞受賞に引き続き、平成24年度の第35回日税研究賞受賞によって成果に恵まれた1年であったと考えている。さらに本研究助成によって派生的な次に掲げる研究成果が生じている。その成果とは、研究代表者の指導下にある大学院生との共著「投資家の期待が示す観光立国への展望」であるが、当該論文は査読により国際公会計学会の学会誌『公会計研究』第14巻第2号への掲載が許可されている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、移転価格税制の適用を受けた法人に課される更正税額の多寡が、いかなる企業属性によって決定されるのかという観点から検討を試みる。具体的には移転価格税制の適用を受けた法人のCARと企業財務の関連性や、進出先の別(新興国への進出重視か先進国重視か)、(移転価格税制を適用されないための)ガバナンス状況の成熟度合いの違いなどが更正税額になにがしかの影響を与えると推測され、その仮説の検証を試みる。 この検証のために1991年から2011年までの間に更正通知がリリースされた68件の移転価格税制適用例に注目する。これらの68件について新聞報道から更正税額を明らかにし、更正内容に関する詳細情報を収集し、蓄積する。只、イベントスタディを行う場合、更正通知がリリースされた日を特定する必要があるが、明らかになったのは38事例に過ぎず、実証分析上の最低限のサンプル確保を巡って今後も苦戦が予想される。 また本研究助成における核心的課題から少し離れた研究テーマとして、資本剰余金配当の実施法人について資本維持と課税問題を検討する。この課題は核心的課題の副産物であるにもかかわらず、第35回日税研究賞を受賞しており、重要性の高い課題と考える。加えて残された課題も少なくないため、今後も引き続き検討を継続する必要性がある。とりわけ資本剰余金配当事例そのものが決して多いとは言えず、そのような意味からも観察対象をより多く収集するために、新たな事象を分析対象としての取り込む作業が求められる。さらに分析対象に関する資料の蓄積を進め、同配当を実施する法人の財務状態や連結ベースでの親子会社間のサポート関係、また企業のライフサイクルに於いていかなる時点にあって資本剰余金配当を実施しているのかなどの課題に取り組む意義は大きいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究成果を主体的に導出することが可能な分担者への配分を多くする。また主に研究代表者が各地の研究分担者の元を訪れ、分析結果の検討と学会報告の準備・打ち合わせを行う必要から研究代表者の研究費配分はその多くが研究旅費に充てられる。この様な事情から、研究分担者にあっては相対的に研究成果導出に欠かせない書籍や資料の購入に充てられると推察される。 なお、平成24年度に於いて研究費の未使用額が発生しているが、領収書や手続き書類の提出を失念したことが原因であり、今後は十分に注意して予算を執行する心づもりでいる。発生した未使用金額は僅少ではあるが、これについては平成25年度の物品購入に充てることとする。
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