研究課題/領域番号 |
23530563
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
柴田 英樹 弘前大学, 人文学部, 教授 (30422059)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 経営者の資質 / 日本の監査風土 / 著しい虚偽記載 / 内部統制 / リスクアプローチ / SPC |
研究概要 |
「研究の目的」「粉飾関与モデル」の構築を目指すことを初年度の主たる目標とする。倒産に至った企業について調査するため、所属大学にない場合には、他大学や国会図書館等にも足を運び、粉飾決算の過去事例を調査し、粉飾に至る企業の実態を研究した。また、最近発覚したオリンパス事件などに関してもその実態を調査した。さらに粉飾に至る企業の経営者の心理状況などに関しても理解する必要があるため、会計及び監査学会に出席し、最新の情報の入手に努め、また実務家が参加する研修会などで自分の研究成果を発表し、経営者の生の声を聴取するように努めた。「昨年度の研究実施計画」「粉飾関与モデル」の構築 「粉飾関与モデル」の構築を目指すことを初年度の主たる目標とする。本研究においては粉飾関与モデルを使用する。倒産予知モデルは倒産企業と継続企業の間で著しい格差があったとして4つの財務指標を使用したモデルである。4つの財務指標とは、次のものである。a.総資本留保利益率 b.総資本税引前当期利益率 c.売上高金利負担率 d.棚卸資産回転率 倒産予知モデルの計算 a×0.01036+b×0.02682-c×0.06610-d×0.02368+0.70773=SAF値 各財務指標に係数に乗じてSAF値を求める。aとbは値が高いほどよく、cとdは低い方がよい。SAF値0.7以下の企業が倒産の可能性が高い企業、1.0以下だと安全ゾーンで、1.4以上が優良企業になる。白田佳子モデルの妥当性について倒産企業を計算することで検討し、さらに倒産企業の中から粉飾決算に関与した企業を粉飾関与モデルにより検討した。粉飾関与モデルは粉飾関与の度合を次の5つの財務指標により統合したものである。a.インタレスト・カバレッジ比率 b.総資本税引前当期利益率 c.売掛債権回転率 d.棚卸資産回転率 e.仕入債務回転率
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献に関する資料収集が順調に進んでおり、この点では問題ないが、実態数値の情報収集が少し遅れていると感じている。研究の中間総括(3月)・1年間の研究成果を総括した。また、下記のような研究成果ともいえる著作・論文執筆を行った。1.人文社会論叢 社会科学編において論文の執筆「オリンパスの粉飾は何故、発見されなかったか」、柴田英樹、『人文社会論叢-社会科学篇』弘前大学人文学部、第27号、査読無、85-101頁、2012年2月。2.人文社会論叢 社会科学編において論文の執筆「企業の不正摘発・防止の監査手続き」、柴田英樹、『人文社会論叢-社会科学篇』弘前大学人文学部、第25号、1-14頁、2011年2月。3.弘前大学経済学会紀要の執筆 「財務諸表監査における実態の監査の必要性についての考察」、柴田英樹、『弘前大学経済研究』弘前大学経済学会、第34号、査読有、63-79頁、2011年12月。4.人文社会論叢 社会科学編において論文の執筆 「未就職者問題と企業財務会計士」、柴田英樹、『人文社会論叢-社会科学篇』弘前大学人文学部、第26号、査読無、17-30頁、2011年8月。5.『会計士の監査風土』柴田英樹、プログレス、2011年6月。
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今後の研究の推進方策 |
(研究の推進方策)本研究計画では、1.「粉飾関与モデル」の構築とその妥当性の検証 2.「粉飾関与モデル」を使用した粉飾の実態の解明 3.粉飾が生まれる土壌である企業風土と監査風土を考察することにより新しい監査手続きの開発・提示の3つの研究を1と2は時系列的に、また、3は1と2と並行して行う。申請者はこれまで粉飾について、その本質や事例研究及び企業風土と監査風土の研究を行ってきた。本研究では、「粉飾関与モデル」を提示することにより、粉飾発見・防止に資する監査手続きを明らかにする。また、当該モデルだけでは解明することが難しい個々の企業風土や監査風土についても解明し、粉飾発見・防止の監査手続きを提示する。倒産企業と粉飾決算には相関関係があると考えられるため、具体的な企業の中からこの相関関係を把握するために「粉飾関与モデル」を構築する。そして「粉飾関与モデル」から求められる数値をSIB値として、粉飾の発見分析に利用する。平成24年に粉飾に関与していたと洗い出した企業について、平成23年度に分析した企業風土のうちのどの特徴や共通点を有しているかを調査する。これらの企業を監査していた監査法人の監査風土を調べてみる。甘い監査を行ったり、多くの監査報酬を得ていたために正しい意見がいえなかった場合があったかもわかるように、それらの企業から得ていた監査報酬も調査する。研究成果については、「研究成果」を取りまとめる過程で所属学会にて報告を行い、成果の発信に注力するとともに、理論面での一層の精緻化を図る。学会での学者の質問や疑問点を踏まえて、再度、理論面の精緻化を行う。上記研究報告書をべースにして、論文および書籍化(商業出版)の準備を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
【平成24年度の研究費の使用計画】・本研究は、研究代表者が単独で実施するが、前述の通り多くの関係機関との連携のもとに推進していく。また、本研究において、共同研究者の参加は計画されていないが、他の研究者や企業関係者とのヒアリングを行い、研究促進を図りたい。なお、当該調査で資料収集において困難が生じてきた場合には、申請者がこれまで構築してきたヒューマンネットワークを活用して対処する予定である。(1)粉飾決算に関与した倒産企業の洗い出し(4~10月)本研究では、平成22年度で倒産企業と粉飾決算の関与を「粉飾関与モデル」を使って洗い出す。「粉飾関与モデル」ではSIB値を求めるが、SIB値がどのような数値であれば、粉飾関与の可能性がないか、どのような数値以上だと粉飾の可能性はあるが従来の手法で行っているか、またどのような数値なら新しい型の粉飾といえるかを解明する。(2)新しい監査手続きの作成と監査法人の調査(11~翌年2月)粉飾をしていると判定された倒産企業について、従来の粉飾と判定された企業の粉飾発見の監査手続きと新しい型の粉飾をしていると判定された企業の粉飾発見の監査手続きとを構築する。これらの企業を監査していた監査法人はどこかについて調査する。また、これまでそれらの監査法人は過去に他にどのような企業の粉飾に関わっていたかも調査する。粉飾の手口が同様ならば、監査法人が指導していた可能性も生じてくる。(3)研究の中間総括(3月)1年間の研究成果を総括する。
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