研究課題/領域番号 |
23530565
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
榎本 正博 神戸大学, 経済経営研究所, 准教授 (70313921)
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キーワード | 財務会計 / 会計基準 / 利益マネジメント |
研究概要 |
平成25年度は,平成24年度に引き続き利益マネジメントの検出方法の進化について,先行研究を基礎に検討した。利益マネジメントの検出方法の主流は,会計的裁量行動を会計発生高を推定する方法と,実体的裁量行動を推定する方法に分けることができる。経営者の利益マネジメントは双方を勘案して実施されている。しかしこれらは研究上は別々に把握され,相互関係を検討せずに分析する研究が多く実施されており,相互関係を考慮して分析する研究はそれほど多くないことが判明した。ここから2つの裁量行動の関係を考慮して研究することの必要性が高いにもかかわらず行われておらず,逆に重要性及びその新規性が高いことが判明した。 次に,1990年以降において,裁量的会計発生高を代理変数とする会計的裁量行動,実体的裁量行動の代理変数である,異常キャッシュ・フロー,異常裁量的費用,異常製造原価を推定した。それらの相互関係を検討すると,裁量的会計発生高は,異常キャッシュ・フロー,異常製造原価とは高い相関関係を持つものの,異常裁量的費用とはほとんど関係を持たないことが判明した。これらは各会計基準に分析を適用する際に基礎となる関係となる。 さらに減損会計基準の強制適用期において中間期の減損損失が,期末の実体的裁量行動と会計的裁量行動に影響を与えていた。その分析に関しては規模や負債比率等のコントロールを行っている。具体的には実体的裁量行動である売上操作,異常製造原価に関係している結果が得られた。ただし,売上操作と異常製造原価の符号が反対であった。また,中間期の減損損失が会計発生高にも影響している結果が得られている,しかし,影響の方向が一致しないため,詳しい分析が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の研究成果の通り,利益マネジメントを推定する有力な手段である裁量的会計発生高と3種類の実体的裁量行動については,それらの相互関係を考慮しなければならない。しかし,具体的な会計基準に対応した利益マネジメントへの双方の相互関係を考慮した分析についてはまだ研究が行われていない。現行の利益マネジメント研究で用いられている有力な経営者の裁量行動の推定方法について,その計算は終えている。しかし具体的な会計基準へのあてはめについては先行研究が筆者の知る限り存在しないため,モデルに試行錯誤を重ねている。そのほか手入力のデータも多いことも遅れが生じている理由である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,引き続き他の会計基準の導入における利益マネジメントを対象としたい。会計的裁量行動として会計方針の変更と(裁量的)会計発生高,実体的裁量行動として3種類の相互関係を分析する。各会計基準導入時にいかに利益マネジメントが行われたかを調査する。分析方法としては,まずこれらの利益マネジメント手法を別々に分析する。その際には,会計基準の導入以外で利益マネジメントの要因となるものをコントロールする。特に退職給付会計基準においては,会計方針の変更が多く行われたことが報告されているため,通常,利益マネジメントの分析で考慮されていないものの,その影響に配慮しなければならない。 次にBardeschar (2011,TAR),Zang (2012,TAR)等で行われた,実体的裁量行動と会計的裁量行動(裁量的会計発生高)の双方を考慮に入れた分析を行う。これにより,各会計基準の導入においてどのような利益マネジメントが実施されたかを総合的に判断することができよう。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の設備備品,物品関連としては,予想利益達成に関するインセンティブを調査するために,予想利益のデータベースを購入する。予想利益達成目的の利益マネジメントの検出に必要なデータであるため予定している。また同様に利益マネジメントに影響を与えるという先行研究のあるコーポレート・ガバナンスに関するデータを購入予定である。加えて前年度に引き続き,会計学や統計学等の関連書籍を購入する。 利益マネジメントの手法としての会計方針の変更についてはデータベースが存在しない。そのため,データを現在所有していない2010年以降の会計方針の変更を分析するには,データを入力する必要がある。従って資料整理のための学生を雇用する。これにより,会計基準設定をめぐる会計的裁量行動の一つである会計方針の変更についてデータが網羅される。 旅費として,分析方法や分析結果の検討及び意見交換を実施する費用,成果報告に要する費用を予定している。また執筆した論文の英文を校正する費用,資料整理のためのファイル等も予定している。
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