研究課題/領域番号 |
23530568
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
福川 裕徳 一橋大学, 大学院商学研究科, 教授 (80315217)
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キーワード | 関連性 / 監査判断 / 適正表示 / 会計基準準拠性 |
研究概要 |
本研究は,会計プロセスを一つの情報伝達プロセスとして捉えた場合に,その中で監査人が「関連性」にどのように関与し,それをどのように評価するのか,そして監査人によるそうした評価にどのような要因が影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的としている。平成23年度までに行った「関連性」概念に対する考察、具体的には、言語学(語用論)の分野において展開されてきた関連性理論(Relevance Theory)を応用して構築した会計プロセスにおける関連性の意義に関する理論的フレームワークに基づいて,制度レベル及び財務諸表レベルでの監査人による関連性の評価の意義を検討した。特に、会計基準に準拠していなくとも財務諸表に含まれる情報に関連性があることが明らかな場合(関連性があることを支持する明らかな証拠がある場合)において,関連性の明示的な評価が監査人に求められた事例として、アーガイル・フーズ社事件(イギリス,1981 年)についての資料収集を行うとともにその分析を進めた。 この事件において、アーガイル・フーズ社は、1979年12月期に、この時点では法的に子会社ではないMorgan Edwards社の財務諸表を連結した。当時、両者は合併を協議しており、同一人物によって経営され実質的にコントロールされていたため、合併は形式的手続に過ぎないとみなされたのである。問題は、会社法と会計基準の規定に反した財務諸表が「真実かつ公正な概観」を示しているかどうかであった。監査人であったアーサー・アンダーセン会計事務所は、当該財務諸表が会計基準に準拠していないものの真実かつ公正な概観を示しているという監査意見を表明した。 この事件を考察することにより、会計基準の体系によってもたらされる会計機能そのものの関連性についての明示的な評価を行うことが求められた場合に監査人がどのような判断を求められるのかを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度までのところ,おおむね順調に進行している。特に,平成24年度は、入手可能性が心配された、アーガイル・フーズ社事件に関連する資料、特に同社の事件前後数年間にかかる財務諸表を入手できたことは大きな進展といえ、平成23年度の遅れをほぼ取り戻すことができた。また、監査人の「関連性」への関与に関する理論的フレームワークに関しても、言語学(語用論)の新たな知見を取り入れることによって、さらに洗練させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
アーガイル・フーズ社事件を中心とした事例研究をさらに進展させることが第一の課題である。平成24年度は主に法的な側面からの議論を中心に分析してきたが、今後はすでに入手した財務諸表を用いて、本事件を会計的側面から分析する。特に、会社法や会計基準の規定に準拠せずに、法的に子会社でない会社を連結した財務諸表に対し、それが真実かつ公正な概観を示しているという監査意見(言い換えると、適正表示意見)を表明するにいたった監査人の判断がいかなるものであったのかを、財務諸表に含まれる情報の利用者に対する「関連性」の観点から、すでに構築した概念フレームワークのなかで検討する。監査人が単に、財務諸表の会計基準準拠性のみを問題としているのであれば、本ケースでは、適正表示意見は出されなかったはずである。会社法・会計基準に準拠した場合には、利用者にとって関連性のある情報が提供できないと考えたからこそ、会計基準からの逸脱を認めたはずである。その判断を、会計数値と結びつけながら具体的なレベルで検討する。 第二の課題は、平成25年度は最終年度であるため、論文を中心とした研究成果のアウトプットに注力することである。これまでに構築・精緻化してきた概念フレームワークや、それを用いた関連事例の分析を、論文にまとめ海外での学会をはじめさまざまな機会を利用して公表する。さらに、その後には国際的なジャーナルに投稿する。会計学分野の国際的なジャーナルでは実証研究が中心であり、概念的・理論的な議論のみでは掲載が困難であることも予想されるため、これまでに検討してきたリサーチ・クエスチョンや仮説を実証可能なレベルにまで落とし込み、アーカイバル・データやインタビュー・データを用いてそれらを検証することも視野に入れて研究を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度には、アーガイル・フーズ社の財務諸表(アニュアルリポート)を入手するための旅費を予定していたが、在英の知人を介して郵送で入手することが可能となったため、それに相当する部分を繰り越せることとなった。これは、平成25年度において、国際的な学会・研究会をはじめさまざまな機会を利用した研究成果の公表のための旅費に充てる。
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