本研究では,会計プロセスを一つの情報伝達プロセスとして捉え,そのプロセスのなかで監査人が「関連性」にどのように関与し,それをどのように評価するのか,そして監査人によるそうした評価にどのような要因が影響を及ぼすのかを明らかにしようと試みている。 平成24年度まで分析してきたアーガイル・フーズ社事件(イギリス,1981年)を中心とした事例を、平成25年度はさらに会計的側面から掘り下げることに注力した。特に、監査人の判断・意思決定を対象とした既存研究を「関連性」の観点から整理し、そこで明らかになっている結果といくつかの事例とを結びつけた。アーガイル・フーズ社事件については、会社法や会計基準の規定に準拠せずに、法的に子会社でない会社を連結した財務諸表に対して表明された、真実かつ公正な概観を示しているという監査意見(言い換えると、適正表示意見)の背後にある重要性判断を、財務諸表に含まれる情報の利用者に対する「関連性」の観点から、すでに構築した概念フレームワークのなかで位置づけた。 さらに、2011年にわが国において発覚したオリンパス社の粉飾事例を取り上げ、その中での監査人の判断を分析した。具体的には、当該事例に関する第三者委員会報告書において示されている事実関係を前提に、「what if」分析を行った。監査人による証拠の評価(証拠の「関連性」の評価)を信念関数(belief functions)を用いて定量化し、証拠のネットワークの中で理論的にどのように統合されるのか、されるべきであったのか、を分析した。さらに、監査人の職業的懐疑心の重要性が制度的に強調されることによって各証拠の評価が変化した場合に、最終的に統合された監査人の判断がどのような影響を受けるのかを、感応度分析によって明らかにした。
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