研究課題/領域番号 |
23530571
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
大雄 智 横浜国立大学, 国際社会科学研究科, 准教授 (40334619)
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キーワード | 企業結合会計 / 連結会計 / 資本会計 / 概念フレームワーク / IFRS |
研究概要 |
当年度は、まず、アメリカの会計実務にみられるプッシュ・ダウン会計の適用事例を分析することにより、企業の財務諸表で新しい会計の基礎が認識される条件を検討した。新しい会計の基礎が認識される条件は、投資の継続・清算を判断するうえで、経済的資源に対する企業の支配と企業成果に対する株主の持分という二つの観点をどのように位置づけるかという問題と密接に関連する。 従来のプッシュ・ダウン会計では、持分の継続性によって投資の継続性が判断され、また、新株主の持分の取得原価が会計の基礎を構成していた。それに対して、現行のFASBの企業結合会計基準では、支配の継続性によって投資の継続性が判断され、取得企業が支配した経済的資源の公正価値が会計の基礎を構成している。すなわち、従来のプッシュ・ダウン会計は現行のFASBのアプローチと整合しない。したがって、今後のその位置づけは、会計基準の体系を分析するうえで注目すべきポイントの一つになると考えられる。 また、当年度は、2011年5月に公表されたIFRS 11を踏まえ、ジョイント・ベンチャー投資の財務報告方法(持分法 vs. 比例連結)についても検討した。この問題は、従来、支配概念や資産概念との整合性といったストックの観点から検討されることが多かったが、本研究では、事業投資の損益表示というフローの観点からも検討した。 IFRS 11によって廃止された比例連結は、たしかに、排他的な支配の存在によって資産を定義する概念フレームワークと首尾一貫しないが、一方で、ジョイント・ベンチャー投資の成果を営業損益に反映し、投資の性質に合った損益情報を提供するというメリットがある。したがって、貸借対照表には持分法を適用し、損益計算書には比例連結に準じた方法を適用するという工夫も検討に値する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、貸借対照表アプローチと損益計算書アプローチを識別する指標として、支配概念と持分概念の役割に着目している。すなわち、財務報告の主題を、企業が支配する経済的資源の転換プロセスとみるアプローチを貸借対照表アプローチとし、株主が払い込んだ資金の転換プロセスとみるアプローチを損益計算書アプローチとしている。前者では、企業の経済的資源に対する支配の獲得・喪失が重要な経済事象であり、後者では、企業のキャッシュフローに対する株主の権益(持分)の取得・清算が重要な経済事象となる。 当年度に検討したプッシュ・ダウン会計は、新しい会計の基礎を認識するうえで、二つのアプローチをどのように位置づけるのかという問題が顕在化する事例であった。近年の国際的な会計基準ではたしかに貸借対照表アプローチがとられているが、従来の損益計算書アプローチも依然として機能している。その事実は、二つのアプローチを対立的にとらえるのではなく相互補完的にとらえ、両者の発展的な統合を検討すべきことを示唆している。 また、ジョイント・ベンチャー投資の財務報告方法についても、貸借対照表に持分法を適用し、損益計算書には比例連結に準じた方法を適用するというように、二つのアプローチを使い分ける工夫があってよい。本研究は、それがむしろ現実的であり、投資の実質に合った損益表示につながることを示している。 このように二つのアプローチの相互補完性という観点から、主要な会計基準の変遷を分析する作業が今後の課題である。前年度と当年度の成果によりその具体的な見通しは得られている。
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今後の研究の推進方策 |
貸借対照表アプローチと損益計算書アプローチの相互補完性という観点から、主要な会計基準の変遷を分析することが今後の課題である。企業結合会計、連結会計、資本会計をめぐるルールの変遷が分析対象となる。また、近年のFASBおよびIASBによる概念フレームワークプロジェクトの動向も分析対象とする。 また、会計主体論、連結基礎概念、および資本会計を主題とした先行研究を包括的に調査し、エンティティーの概念と残余請求権者の概念がどのように位置づけられてきたのか再検討する。それは、資産概念と資本概念の相互関係にかかわる問題であり、本研究では、その観点から、利益認識のタイミングおよび資本と利益の区別について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、会計基準の変遷を調査するため、1930年代以降のアメリカの会計基準(公開草案や討議資料を含む)や企業のForm 10-K(またはアニュアルレポート)、および、それに関連する理論研究・歴史研究の文献を収集する必要がある。次年度の研究費の一部は、そうした文献の収集・購入のために使用する予定である。他は、主に研究成果の発表を目的とした出張のために使用する予定である。
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