研究課題/領域番号 |
23530574
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
加井 久雄 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (10303108)
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キーワード | 原則主義 / 規則主義 / 連単分離 / 連結先行 / 連単一致 / 制度の補完性 / 比較可能性 / 国際会計 |
研究概要 |
財務報告基準の性格づけとして,規則主義と原則主義があり,日本基準と国際財務報告基準(IFRS)を比較すると,IFRSは日本基準よりも原則主義の程度が強いとされる。IFRSとの統合は,日本基準の性格の大きな変化を意味し,日本の企業経営や経済への悪影響が懸念されている。基準統合が日本の企業経営や経済に与える影響を分析するのに,財務報告制度だけに着目するのは不十分であり,法制度や金融制度などの他の諸制度と財務報告制度の関係を明示的に考慮する必要がある。この観点からの研究成果の一部が「制度の補完性から見た会計制度研究:国際会計研究からの示唆」(『産業経理』第72巻第1号,2012年)である。連結と単体の財務報告の関係について,連結先行論と連単分離論の論争がある。いずれにしても,短期的には連単の基準が分離するけれども,連単の基準が分離していても日本基準とIFRSが「制度の補完性」を通じて互いに影響を与える可能性があることを研究成果は示唆する。 原則主義的なIFRSへの統合が日本の企業経営や経済に与える影響を分析することの他に,財務諸表の比較可能性を向上させるか否かの観点からの分析を行なう必要がある。なぜなら,基準統合の推奨者は,基準の統合によって財務諸表の比較可能性が向上するというからである。しかし,比較可能性の概念は良く定義されることなく使用されており,比較可能性の概念をモデル分析に耐えられるように定式化する必要が生じた。その研究成果が,「比較可能性の分析枠組み」(『會計』第182巻第2号,2012年)である。企業経営の実態について情報優位にある経営者に会計処理・表示方法を選択させることで財務諸表の比較可能性が高まるという意味で原則主義の方が規則主義よりも望ましい可能性があるものの,経営者に正直な行動を選択させる誘引構造を構築することの重要性を改めて確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請時の予定では,連単分離が社会的に望ましいか条件を数理的に明らかにすることを平成24年度の目標としていた。しかし,会計基準の統合化の制度面での動きが早く,その動向の変化を追跡し,その変化に研究計画を対応させる必要が生じたことから,研究の達成度は「やや遅れている」。具体的には,申請時には日本の制度対応として連結先行(連単一致)の方向であったものの,その後,連単分離論が台頭するとともに,連結先行と連単分離の概念に混乱がみられた。そのため,平成23年度の段階で,連単分離や連単一致(連結先行)の概念整理に予想以上の時間を要した。また,具体的な政策上の含意を得るために,会計情報の比較可能性の向上という観点から連単分離と連単一致(連結先行)を比較検討する予定であるけれども,この比較可能性の概念整理とモデル化にも平成24年度に予想以上の時間を要した。 このように,解決すべき中間的課題の解決に申請時の想定よりも時間を必要としたものの,会計学だけでなく法と経済学など隣接分野の文献調査も終え,モデル分析の準備作業も終え,最終的なモデルの提示と分析に向けて研究を進めており,研究の目的を最終的には達成できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究の目的を達成するために必要な道具は揃えることができたので,数式処理のソフトウェアMathematicaを利用しながら,様々なモデルを試行錯誤してモデルを確定させ,分析とその結果や分析結果をもたらすドライビング・フォースを検討したい。また,連単一致と連単分離の比較をする際,社会厚生や投資家の効用だけでなく,比較可能性の観点からの検討を行なうことで政策面での具体的な提言を行なう考えである。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度までの研究成果をより洗練・発展させたものを含め,研究成果を研究会や学会で発表する。また,国際的な学術雑誌への投稿も行なう。そのために英文校正や投稿料などを必要とする。
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