研究課題/領域番号 |
23530575
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
徳賀 芳弘 京都大学, 経営学研究科, 教授 (70163970)
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キーワード | 公正価値 / 会計利益モデル / 純資産価値モデル / 資産負債観 / 混合会計モデル |
研究概要 |
平成24年度は、昨年度に提示した会計利益モデルから純資産価値モデルへの部分的なパラダイムシフト(FASBおよびIASBの具体的な会計基準の内容によって検証)に関して、これらの変化の経済社会への影響を検証した。まず、①SSRN(Social Science Research network)に掲載された公正価値情報の価値関連性を研究した全論文のうち実証研究のみを抽出して調査を行った。また、②追加的にこれらのワーキングペーパーのうち査読付き論文に掲載された論文のみを対象として同じ調査を行い、同様の結果を得ている。さらに、③SSRNに掲載された公正価値情報の契約支援への影響を研究した全論文(少数)についても調査を行った。これらの実証研究の成果に基づけば、金融商品と金融機関が公表する公正価値情報を除けば、IASB/FASBの公正価値多用政策の効果は投資意思決定支援に関して限定的であり、契約支援の面でも新たなコストを発生させていることを明らかにした。また、金融商品、とりわけ、競争的市場において取得される金融機関の保有する金融商品の公正価値情報の価値関連性が高いことは、④公正価値会計についての今後の制度設計へ重要な示唆を提示することができた。 こうした状況下、現実的で合理的な会計モデルとして、⑤「純資産価値モデルとしての混合会計」モデルと「会計利益モデルとしての混合会計」モデルを提示した。いずれのモデルも、現行の会計基準に比して投資意思決定支援機能を高め、同時に契約支援において解決困難な問題を生み出さないという政策目標に沿った修正案であるが、前者のモデルは混合会計の理論的な位置付けは明確ではないがフィージビリティが高く、他方、後者は、理論的には「のれん」価値の有無を線引きの規準とする堅牢なものであるがフィージビリティは低い。今後の検討課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、昨年度の調査結果であるパラダイムシフトに関する結論を踏まえて、SSRN(Social Science Research Network)に公表された、公正価値評価の影響に関する全論文(実証研究に限定)に対して調査を行い、公正価値評価すべきものとそうでないものを区別するための規準構築について重要なヒントを得ることができた。また、これらの結果と整合的な2つの「混合会計モデル」を提示することができた。これらの研究成果は、昨年度に別掲の論文として公表している(契約支援に関しては2013年6月に公表予定である)。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、①昨年度の公正価値評価の経済社会への影響についての調査を補強する調査、②契約支援への影響に関する調査、③混合会計モデルの再検討、および④成果の国際学会での報告である。①については、研究の質を担保するために、昨年度のワーキングペーパー(玉石混淆であるとの指摘に応えて)を中心とした調査に加えて、査読付トップジャーナルに掲載された研究のサーベイを行い、その結果と昨年の結果との突き合わせを行う。 また、調査の内容に関しても研究方法によって「影響」の意味が相違するため、研究方法毎の研究結果の調査も行う。②については、昨年度より日本銀行金融研究所との共同研究を行っているが、「契約」の内容を分類して、各契約グループ毎に公正価値評価の影響を検討している。③については、昨年提示した2つの「混合会計モデル」をさらに洗練させて、a.測定値の硬度(測定主体の操作可能性・測定対象の技術的測定可能性・測定方法の開発度)とb.測定対象となる取引・事象に関するビジネス・モデルの2つの視点から さらなる精緻化を図る予定である。③に関しては、これらの研究成果を複数の国際学会、例えば、IAAERの年次大会(ブカレスト:6月10日~13日)、AAAAの年次大会(ペナン:10月27日~29日)、および複数の大学で開催されるワークショップ等で報告を行い、その結果を研究にフィードバックする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
論文執筆のための消耗品に充当する予定である。
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