研究概要 |
平成23年度は4つの領域から研究を開始した。第1はローマ法の果実(Frucht)概念の研究である。果実概念はドイツ民事法で重要な概念であるにもかかわらず、ローマ法では果実概念は多義的で不明瞭な概念であった。(ローマ法では果実という語を総収益だけでなく純収益にも用いている。) 第2は19世紀末のドイツ語関係文献を研究した。具体的にはライヒェル(Reichel)(「ローマ法とドイツ民法典の果実の概念」、 1967年)とペトラツィキ(Petrazycki)(『所得論』、1893年)を手がかりに果実、嫁資(dos)、家族世襲財産(fideikommiss)の原典を研究した。果実は当初一定の具体的な対象物から生み出されるものであった。時代が進むにつれ用益権の領域での果実概念が重要となった。ある対象物が果実となるのか、非果実となのかによって、対象物が用益権者に属するのか、所有者に属するかが決まることになるからである。 第3は19世紀プロイセンの所得税法判例を争点別に分類した。このうち減価償却に関する判例が本研究にとって重要であることがわかった。 第4は、19世紀の所得概念論争で出現する研究文献を、果実を生み出すもとになっている対象物は何か、何を果実と考えているかという視点から調査・研究している。具体的にはヘルマン(Hermann, 1874)、シュモラー(Schmoller, 1863年)、マイヤー(Meyer, 1887年)、リューダー(Lueder, 1820年)、ヤーコプ(Jakob, 1824年)、リーデル(Liedel, 1828年)、クラインベヒター(Kleinwächter, 1896年)を並行的に研究している。本研究はわが国では先行研究の多くない研究領域であるけれども、会計学上重要な基礎研究であると確信する。研究を進めて斯界に貢献できる研究成果を公表したい。
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