研究課題/領域番号 |
23530583
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大下 丈平 九州大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (60152112)
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キーワード | ガバナンス / コントロール / マネジメント・コントロール / パラドックス / フランス |
研究概要 |
本年度の研究実績は、単著「ヘルスケアにおける「競争戦略」と原価計算―TDABCとUVA法の比較考察をめぐって―」『経済学研究』第80巻第5・6合併号、2014年3月、113-135頁にまとめられている。本研究は4つの論点を巡って進められているが、この論考は、特に「管理会計の発展は企業組織の経済モデル化の次元で考えるべきもの」とする4つの論点の一つの考えをTDABC(時間主導型活動基準原価計算)とUVA(付加価値単位)法の比較考察をめぐって行ったものである。 つまり、ABC(活動基準原価計算)からTDABCへの流れと、ABCからUVA法への流れを比較対照した分析視点は、原価計算というものが、一端ABCのような純粋な理念モデルを得た後は、ひたすらそのモデルからの単純化(経済的な合理化)を志向するものであることを確認したものである。 もっとも、その場合に確認しておかねばならないことは、単純化を図ることによって失われる原価計算上の計算の正確さを担保するための仕組みを組み入れていることである。その仕組みがTDABCの場合もUVA法の場合も時間による換算計算における同質性の意識的創造にあることを見出した。このことが今年度の最大の成果である。こうした原価計算の進展のあり方を企業組織の経済的モデル化の一つとして考えるならば、これこそ原価計算の発展と言えよう 。換算計算における同質性の意識的創造のプロセスこそ、原価計算の一般的なあり方であるとすれば、原価の同質性原則こそ原価計算の一般理論の核心をなすものと考えることができよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究がおおむね順調に進展している理由を、次の2点にまとめることができる。 (1)単独報告「ヘルスケアにおける「競争戦略」と原価計算―Kaplan R.S. & M. E.Porter (2011) からTDABCの意義を学ぶ―」日本会計研究学会全国大会第72回大会、2013年9月6日(中部大学)を行い、これを単著「ヘルスケアにおける「競争戦略」と原価計算TDABCとUVA法の比較考察をめぐって―」『経済学研究』第80巻第5・6合併号、2014年3月、113-135頁にまとめることができたこと。 (2)昨今の「価値多様性」の下で、本研究の課題であるガバナンス・コントロールの可能性を考え、そこから問題を立てることによって、以下のような隣接領域で見られる様々な事態を次の6つの論点にまとめることができたことである。①財務会計研究の多様化・学際化(古賀[2014])、②財務報告の「管理主義化」(Zambon[2011])、③新自由主義政策理念の下での「管理主義化」の浸透(M.パワー[2007])、④「統合報告」の議論(IIRC[2013])、⑤独立取締役(independent directors)の意義(『商事法務』の特集)、⑥価値創造取締役会(VCB)の構想とその具体化。こうした6つの論点をコントロール論・管理会計論の視点から整理し、これらに論点に対峙することによって、申請者が提案するガバナンス・コントロールの内容を豊富化する契機を得たことである。
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今後の研究の推進方策 |
上記の[現在までの達成度]項目の中で書いたように、今後は、したがって、マネジメント・コントロール論・管理会計論を取り巻く、財務会計、財務報告、会計監査、会社法などの最近の新しい動向をも視野に入れ、ガバナンス・コントロールの持つ内容をさらに豊かにする作業を継続していく。具体的には、次のような研究上の方策が採用される。 ガバナンス・コントロールは競争力、価値創造および持続性という互いに矛盾する要素に注目する。これらの要素は、時間的なパラドックス(長期・短期)、財務・非財務のパラドックス、企業内外のパラドックスといったものを抱え込んでいる。さらに、ガバナンス・コントロールはCOSOを始め、現在、多様な国際的な公的機関、民間団体などが提供する規則やルールなどを自主規制の形でマネジメントに取り込んでいく論調が顕著であることにも関心を寄せる。例えば、最近話題のIIRCの「統合報告」は、環境、社会責任およびガバナンスなどの情報を財務情報に融合させた形の外部報告の新しい形を提案している。こうした点に関わる多様性のコントロールについて、本研究はその可能性をガバナンスのレベルでの取り組みに見出すことに特徴をもっている。こうした試みを通して、ガバナンス・コントロールが、これまでのマネジメント・コントロールと異なり、内外のコントロールを同時に進めていかざるを得ないという意味で新しいコントロール論となっていることを明らかにする。そして、現在、こうしたコントロールの新しい形が喫緊の課題となっていることを明らかにしていく。 これに関わって、フランスの新しいコントロールの動向についても、フランスのグローバル企業(例えば、Lafarge やDanoneなど)の個別のケースを取り上げ、分析を加える予定である。
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