研究課題/領域番号 |
23530588
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
窪田 祐一 大阪府立大学, 経済学部, 教授 (40329595)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 組織間管理会計 / 戦略的提携 / M&A / 事業再編 / 知識連鎖 / マネジメント・コントロール |
研究概要 |
本研究は、M&A(合併・買収)・戦略的提携による事業再編の後に生じる「戦略変更」と「管理会計」との関係を検討している。企業実務において、これらの事業再編の重要性は高まっている。しかし、再編後に当初の戦略目標を達成できず、その多くが失敗していると言われている。管理会計の先行研究では、再編後の組織間分業に対する組織間コントロールを解明してきた。これらの先行研究の知見を踏まえ、本研究では、組織間分業のための内部組織のマネジメントに注目している。なかでも、他組織との関係性によって獲得した知識を企業内で活用し、別の関係性へと移転する「知識連鎖マネジメント」を明らかにするよう研究を展開してきた。 平成23年度は、文献調査に加え、聞き取りによる予備的調査を行い、新たな郵送質問票調査に向けた質問項目や尺度の開発を行う予定であった。まず、事業再編を戦略変更の観点から捉えるうえで有用と思われる戦略的コストマネジメントに関する先行研究の知見を整理した。なかでも、組織間関係にみられる構造的コストマネジメントに注目し、サプライチェーンマネジメントによる事業再編を検討した。 さらに、被買収企業にミニ・プロフィットセンターを導入することで、業績を回復させた成功事例を調査した。この事例では、それ以前のM&Aの経験をうまく活用することで、組織変革を導くとともに、新たな戦略が実施されていたことが明らかになった。加えて、過去に実施した戦略的提携に関する質問票調査のデータを、再度、分析した。この分析結果より、組織内インターラクション(組織内の上司・部下間のコミュニケーションや組織内のマネジャー間の議論など)が、組織間分業のモニタリングによって得られる組織間成果を高める可能性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度では、聞き取りによる予備的調査と先行研究の文献調査を継続的に進めてきた。聞き取り調査は、多面的かつ複数回、実施してきた。 まず、研究目的には、「M&A・提携という再編枠組み決定後、外部組織との関係性(分化・統合)を維持・促進するための企業内部の取り組みと管理会計実践を把握すること」がある。この点について、M&Aにおける被買収企業の取り組みに利用される管理会計情報や会計担当者の役割に加え、管理会計システムにより再編後に戦略変更が生じる状況等を、ある程度、確かめることができている。ただし、ミニ・プロフィットセンターという特定の管理会計システムに限定されるため、他の管理会計システムを調査する必要性が残っている。加えて、買収企業側の業績管理に関与する会計担当者に対する調査が進んでいない。もう一点、研究目的から予備的調査を行うことには、「再編後に管理会計システムの設計や運用が構築・変更される場合、その構築・変更に対する促進・阻害要因等を解明すること」があったが、この点はある程度観察できた。 文献調査は、管理会計に関連する先行研究をフォローアップできている。また、組織論の研究領域から、組織間学習、吸収能力、戦略変更概念に関する文献を整理してきた。加えて、当初、計画段階で予定していなかったが、過去の質問票データを再度分析することで、学習という概念を掘り下げて検討することが、本研究にとって不可欠であることが明らかになっている。さらに、24年度に質問票調査に向けての準備を進めてきた。このように、残されている作業もあるが、本研究はおおむね順調に推移しているものと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
24年度は、23年度に実施した聞き取りによる予備的調査を継続して実施し、加えて質問票調査の実施を予定している。過去の質問票データの分析を実施したことにより、組織間「学習」と組織間分業を支える内部組織マネジメントを同時に分析することが必要であるという新たな知見が得られた。このため、この知見を踏まえて24年度は聞き取り調査を拡充させる。また、当初の予定と異なり、今まで調査を継続してきた研究サイトであった企業の協力が得られなくなったため、他の企業に協力をお願いすることで本調査を充実させる予定である。なお、次年度に使用予定の研究費が生じた理由には、聞き取りを効率的・効果的に実施できたことにより、予備的調査の回数を減らすことができたことがある。また、大学院生などを継続的に雇用できたため、外部業者へ委託する作業を減らすことができた。このようなことから次年度以降の本格的調査の充実に備えて研究費を残すことができた。 24年度は、郵送質問票調査をなるだけ早い時期で実施できるように準備を進める。事前にパイロット調査を実施したり、他の研究者のアドバイスをもらうようにし、質問票の質を高めたい。この質問票調査により、研究課題である(a)再編後の内的マネジメントと管理会計実践の把握、(b)再編後の管理会計システムの設計・運用上の影響要因などの解明を目指す。質問票調査の分析結果はワーキングペーパー化し、学会報告に向けて準備を進める。加えて、研究課題(c) 過去の知識の蓄積・活用による組織能力向上に管理会計システムの果たす役割についての聞き取り調査を本格化させていきたい。また、研究の全期間にわたって、管理会計・隣接領域の研究者ネットワークを拡充し、適宜、研究の方向性、方法論、そして成果をチェックしたい。(c)の分析が遅れる場合でも、課題(a)(b)の分析に基づく論文の作成を先に進めたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も、複数の企業に対して、戦略的提携やM&Aの実態に関して聞き取り調査を継続して実施する予定である。23年度の文献調査から、構造的コストマネジメントの観点からのサプライチェーンの再編は、本研究の目的と合致していることが明らかになっており、本年度から聞き取り調査の対象事例として加える予定である。これらの調査旅費に加え、他の研究者と意見交換をするための研究打合せの旅費の使用を予定している。これらの旅費は、主に国内を想定している。しかし、事業再編が国内にとどまらないケースも見受けられるために海外での調査や、在外の研究者との研究打合せや研究動向の把握のための国際学会の参加なども積極的に検討して、実施していきたい。 続いて、郵送質問票調査に関連する費用を予定している。統計ソフトウェアを新規に購入する(一部、バージョンアップ版にして節約する)。加えて、質問票の印刷費、発送費、また発送先となるリストや宛名ラベルの購入などを予定している。 聞き取り調査では多くの場合において記録しているが、これらのテープ起こしの作業や、質問票調査の際のデータ入力や資料収集・整理などといった事務補助のために、大学院生等の雇用を予定している。さらに、聞き取りの考察や統計分析がスムーズに進まない場合には、他大学の教員に協力をお願いしたり、専門的知識の提供を受けたりしたい。 加えて、本研究に関連のある研究領域は多岐にわたるため、それらの文献調査も継続する予定であり、管理会計関連図書、経営戦略論・組織間関係論関連図書、グループ企業調査の関連図書などを購入するとともに、論文作成支援ソフトなどの購入を予定している。 以上のように、効率的に研究作業が行えるように研究費を活用したい。
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