研究課題/領域番号 |
23530588
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
窪田 祐一 大阪府立大学, 経済学部, 教授 (40329595)
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キーワード | 組織間管理会計 / 戦略的提携 / M&A / 事業再編 / 知識連鎖 / マネジメント・コントロール |
研究概要 |
本研究の目的は、事業再編(合併・買収・提携)後の戦略変更と管理会計との関係の解明にある。なかでも、企業と企業の知識を連鎖させるマネジメント(知識連鎖マネジメント)は、戦略やマネジメント・コントロール・システムと密接な関係にあり、事業再編後の業績に影響を与えると推測している。この研究目的のもと、H23年度は、予備的な聞き取り調査と文献調査を実施してきた。 H24年度は、アメーバ経営に代表されるミニ・プロフィットセンターよる被買収企業のケースを再検討した。そこでは、戦略変更のプロセスに、経営理念や経営哲学が影響することで、部門採算制度におけるPDCAサイクルの密度が高まる可能性を見いだした。それは、組織業績の向上に繋がりやすい外部志向的かつ目標達成重視の組織文化とマネジメント・コントロール・システムが関係している可能性を示唆するものである。この点を他のケース研究へと展開してきた。また、組織文化の視点は、グローバルな事業再編(海外における合弁、買収、提携等)の成否にも影響を与えていないかを検討している。 また、アメーバ経営を導入した企業に対する質問票調査のデータの見直しを実施した。コンサルティング会社を通じて、新たな管理会計システムを導入したとしても、そのパッケージの導入は、他の企業で培われた知識の移転に繋がる可能性がある。このデータの結果からは、同じシステムを導入していても、その定着や成果に差が生じていることを再確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H24年度は、聞き取り調査を実施するとともに、先行研究の文献レビューを継続的に行ってきた。研究は進展しているものの当初の目的を達成するために、補足的な聞き取り調査やデータの再確認が必要になった。そのため、H24年度に予定していた郵送質問票調査の実施はH25年度に先送りをすることにした。 具体的には、国内における事業再編と海外事業を含むグローバルな再編とでは、同じ企業であっても知識連鎖マネジメントの実態が異なってくる可能性が推測された。この点、物理的な距離の問題もマネジメント・コントロール上に存在するが、多くはナショナル・カルチャーや組織文化の影響と思われた。そこで、この点について聞き取り調査を実施するなどして、当初の研究目的を補足するような横展開の研究を実施してきた。 加えて、知識連鎖マネジメントを支援し戦略の変更を導くような管理会計システムには固有の特徴があることも予見されたため、本調査で取り上げてきたアメーバ経営の導入の実態を再検討することにした。このため、アメーバ経営の導入に関する実態調査のデータを手に入れ、再分析した。 また、H23年度は調査に継続的に協力いただいていた研究サイトから、調査協力が得られなくなっていた。この点をカバーするように、代替の調査サイトを探してきた。その結果、本研究の課題を本格的に調査させていただける新たな協力企業を確保できたが、調査のスタートが想定していたよりも遅れる結果となった。ただし、調査内容を充実させることができる状態となっている。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度は、最終年度であるため、研究の取り纏めが行えるように調査を推進させたい。まず、現在、聞き取り調査を継続している企業に本格的なケーススタディを実施していく。そこでは、研究課題である「管理会計システムが知識連鎖マネジメントを支援し、戦略変更を導く」という点を明らかにしたい。さらに、このケース研究を中心に二つ目の課題である「管理会計システムの設計や運用は、事業再編後の知識連鎖や戦略変更に関連して構築・調整される」というメカニズムについても解明したいと考えている。加えて、提携に関連する専門担当部門や管理会計システムの役割については、別のケース研究が必要であるが、これも検討したい。 また、今回の研究目的の達成において、郵送質問票調査の実施の必要性や妥当性について再検討している。H23年度、H24年度と他のデータを手に入れて再分析を実施してきたが、十分ではないため、現在のところ、実施する予定でいる。 さらに、H23年度の研究成果を受けて、組織間分業を支える内部組織マネジメントと組織間学習の関係性を、組織間マネジメント・コントロールの観点から分析したい。また、H24年度の調査の知見でもあり、今回の研究を補足する形でスタートさせている組織文化とマネジメント・コントロール・システムの関係の研究内容についても取り纏める予定である。外部志向的かつ目標達成重視の組織文化が、PDCAサイクルの密度を高め、組織業績に繋がることを研究成果として示すことで、今後の新たな研究テーマの設定へと繋げたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度は、聞き取り調査を継続する予定である。すでに調査先が特定されていることから、多くの機会が予定されている。これらの聞き取り調査を円滑に進めるために、テープ起こしなどの作業は、業者等に委託することで効率化を図りたい。 また、前年度に実施せずに先延ばしをした郵送質問票調査を予定している。ただし、その必要性や妥当性から変更の余地もある。実施する場合はスムーズに分析や研究の取り纏めができるように、郵送先の選定等はデータベース提供会社を利用し、データ入力は他の研究者に協力を得るなどして効率的に実施する予定である。なお、郵送質問票調査に掛かる費用は、今年度に使用すべく、前年度より繰り越してきている。仮に実施しない場合は、その予算は、上記の聞き取り調査の充実や、他の研究者との意見交換等の旅費に回す予定である。 本年度は、最終年度であるため、積極的に研究成果を発表したいと考えている。ただし、上記の調査には、相当の時間を要するとともに、その解釈には国内外の他の研究者との意見交換も欠かせない。そのような機会を確保するように努めたい。なお、研究上の考察や分析がスムーズに進まない場合には、他の研究者から専門的知識の提供を受けることも考えている。さらに、調査データを効率的に管理したり、論文の作成を支援するようなソフトウェアを活用する予定であり、古いものは購入・更新したい。 以上のように、効率的に研究作業を実施し、最終年度としての取り纏めを行っていきたい。
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