研究課題/領域番号 |
23530598
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
今福 愛志 日本大学, 経済学部, 名誉教授 (80059740)
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キーワード | 公的年金制度 / 政府会計基準審議会 / 割引率 / 期待運用収益率 / 給付債務 / 年金資産 |
研究概要 |
本研究テーマは、公的年金制度における給付債務の研究であるが、本年度は米国の地方公務員の年金債務の会計基準を対象として研究を実施した。すなわち、2012年に米国の政府会計基準審議会(GASB)から公表された公開草案「年金会計と財務報告」を素材として、従来の会計基準が公務員年金制度にかかる給付債務概念を明確にしないまま、州または地方政府の拠出規定にもとづく毎年の拠出額を債務ならびにコストとして認識してきたのに対して、公開草案では拠出額と債務とは別個の性格のものとしてとらえて、給付債務それ自体を問題にしてきた。それは拠出にもとづく財務サイドから給付債務をみるのではなく、会計サイドから改めて債務概念を構築しようという試みであるとみなされる。 この公開草案は、私的企業の年金会計基準FAS87号のフレームワークの構築と基本的には同じものに立脚して、公的年金制度の給付債務概念を構築したものといっても間違いないであろう。もちろん、給付債務の測定レベルに関しては、FAS87号のようにすべての給付債務に対してリスクフリー・レートを割引率として使用するのではなく、非常に限定的な利用にとどまっている。すなわち、基本的な割引率は年金資産の期待収益率の利用が認められている。しかし、そうした限界があるとしても、従来のようにすべてを期待運用収益率をもとに給付債務の現在価値を算定していたのと異なり、割引率の選択に一定の制約がもとめられている点が、評価されるべきであろう。 そうした動向をうながす要因の1つとして、地方債市場に向けて地方債発行の際のディスクロージャー問題が考えられる。政府であっても、資本市場に関与するなかで会計(会計基準)のあり方が問われている点も、給付債務概念のフレームワークの再構築をうながす要因の1つであることも忘れてはならない点である。次年度は、主題の検討にむけて研究を展開する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の「9 研究実績の概要」で述べたように、これまでの研究では公的年金制度の給付債務を直接に対象としたものではなく、間接的に公務員年金制度における給付債務のフレームワークの構築の契機と意味を明らかにしているにすぎないからである。ただし、この作業は主題におけるフレームワークの再構築にむけて大きな前進となる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、上記のGASBの公開草案が平成22年6月に承認されたこと、ならびに地方債発行をめぐる米国証券取引委員会(SEC)の州政府への訴追の動向などを詳細に検討して、給付債務概念のフレームワークの構築に資するよう研究する予定である。 さらに、上記の研究をふまえて公的年金制度-わが国の公的年金制度-財政に対するもう1つの見方を提示する意図から、公的年金制度の給付債務概念を会計学の研究アプローチをつかって明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、最終年度でもあるため、国内外の調査研究のための費用、ならびに情報機器の購入を中心として使用し、その他内外の関連文献の購入にも支出する予定です。
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