本年度における研究は、企業年金会計基準という民間の会計基準のフレームワークが、公的年金会計といっても米国における公務員の年金会計基準のフレームワークの構築にどのような影響をおよぼしているのか、という課題にむけて検討された。 その際の中心課題は、公務員年金会計における主題は、私的企業の年金会計基準と同じく年金負債のとらえ方にある。すなわち、私的企業の年金会計基準が、既発生債務を安全性の高い利回りによって割り引いて算定されるのに対して、米国地方政府の財政の考えかたにもとづく制約をうけて、負債を2つのタイプに区別している。ひとつは年金負債のうち給付のために現に積み立てられている年金資産によって給付が確実な負債、ならびに拠出が予定される債務については、割引率は期待運用収益率で、そうでない年金負債については民間企業と同じ安全性の高い割引率によって計算される。 このように、公的年金負債の測定にとっては、必ずしも信頼性の高い年金負債の測定とはならないまでも、そこにも民間企業の年金会計基準のフレームワークが導入されてきている点が、重要である。 以上の観点から、本年度は民間企業の年金制度と会計問題とのあいだの相互作用に注目して、年金負債の売却-バイアウト-問題が会計基準のフレームワークにおおきな影響の可能性があること、そしてそうした状況が、上述した公的年金制度の会計基準問題にも一定の影響をあたえると予想されること、という観点にたって、英国のバイアウト会計問題についても検討した。 以上、本年度の当該研究テーマに対する研究実績は、誇れるほどの成果をあげたとはいえないが、これまでほとんど問題にされてこなかった公的年金会計基準の研究にむけて一歩推し進めたといっても、許されるであろう。
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