研究期間全体を通じての成果は、第一に、国内外の管理会計学、経営学、心理学領域の既存研究のサーベイをもとに、自律的組織のための管理会計の要件の抽出を行った。第二に、自律的組織として捉えられる原価企画にどのように自律的組織のための管理会計の要件が導入され、原価企画がどのように進化したのかを創業時から近年に至るトヨタ自動車の事例を用いて歴史的に跡付けた。その中で、グローバル化によって生じた問題をどのように解決したのかについても明らかにした。 最終年度においては、企業活動のグローバル化により存在している海外拠点のマネジメント・コントロール・システム(以下MCS)のあり方について更なる検討を行った。第一に、上記自律的組織のための管理会計の要件とその成果との関係に海外拠点の国民文化が与える影響を解明すべく、MCSとその成果に国民文化が与える影響を実証的に明らかにしている海外の研究のサーベイを行った。第二に、本社と海外拠点のMCSの違いやそれをもたらしている要因についてアンケート調査をもとに論じている国内の研究をサーベイした。第三に、多国籍企業のMCS設計において、本社のMCSを海外拠点にも適用する、或いは、各海外拠点の国民文化に合ったMCSをそれぞれ設計するという選択肢が考えうるが、前者の場合、海外拠点の国民文化と本社MCSの間に不適合が生じる可能性があることから、海外拠点の組織文化を本社MCSに適合した文化に修正することが有効であると考えられる。そのような組織文化の修正の実務に関する既存研究の知見を確認した。第四に、自律的行動は各組織成員の自律的な情報収集とそれら情報の組織成員間での共有とからなるが、海外拠点間の情報共有を促進する管理会計システムをいかに設計・運用するかという問題について、既存研究その他資料に基づき、考察を行った。
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