研究課題/領域番号 |
23530605
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研究機関 | 大阪経済大学 |
研究代表者 |
増村 紀子 大阪経済大学, 経営学部, 准教授 (30388334)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 会計基準のコンバージェンス / 国際会計基準 / 会計情報 / 財務報告 / ディスクロージャー / 無形資産 / 研究開発投資 / 暖簾 |
研究概要 |
現在、世界のほとんどの国々が国際会計基準を自国基準として採用している。しかしアメリカと日本では会計基準は自国基準を用いており、国際会計基準はいまだ採用していない。そこで日本基準の国際会計基準とのコンバージェンスの変遷経緯と現状についての資料を集め検討した。その結果、日本基準と国際会計基準間の今なお残る差異の1つに、研究開発投資の会計処理があることがわかった。国際会計基準では資産計上するのに対して、日本基準では費用計上する(米国基準も費用計上する)という相違であり、この会計処理の相違は、会計基準のもつ情報内容を左右する重要な要因の1つであることを明らかにした。 研究開発投資の会計処理に関しては、数度にわたり国際会計基準への準拠が検討されてきた。それらに関する先行研究を収集し検討した結果、費用計上されている研究開発投資額を利用して資産性の検証が実証的に進められ、研究開発投資に資産性があることが明らかにされていたことがわかった。またその採用には、研究開発投資から得られる将来の収益獲得の可能性について依然として大きな不確実性がある等の理由から、実現しなかったことを示した。 現行の日本基準が、国際会計基準とのコンバージェンスを図って研究開発投資を資産計上するという会計処理を採用した場合の、財務諸表にあらわれる情報内容とそのことによる問題点について調査する必要があると考えた。そのために、企業結合において他企業から取得した研究開発投資(仕掛研究開発)の会計処理は資産計上されていることに注目した。そして、実証研究の結果から、研究開発投資が資産計上された場合、財務諸表は有用な情報内容をもつ可能性があることが明らかになったが、開示が不十分な現状では有用な情報の効果を明確に示すことができないという欠点があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は、両基準間でいまなお残る差異のうち、研究開発投資の会計処理が会計基準のもつ情報内容を左右する重要な要因となっていることを明らかにした。またこの差異について、国際会計基準とのさらなるコンバージェンスを図り日本基準を改訂していくことが、日本基準のもつ情報内容をより向上させる可能性があることを実証的に証拠づけ、かつ日本基準下では開示の充実を図る必要があることを指摘した。この成果は、企業会計基準委員会のこれまでからの積極的な国際会計基準とのコンバージェンスへの推進が、日本基準の内容、精度を高めるうえでなお財務諸表の利用者にとって有益であり、かつ必要とされている現状を裏付ける基礎的資料となろう。
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今後の研究の推進方策 |
研究第2年目の次年度は、国際会計基準とのコンバージェンスが進まない一因になっていることが再三指摘されてきている「暖簾の償却・減損の会計処理」について実証的に検討する。日本基準下では、暖簾は規則的に償却し、かつ必要に応じて減損処理を実施するという独自の会計処理を定めている。しかし国際会計基準や米国基準では、暖簾は償却せず必要な時に減損処理を実施するのみという会計処理を採っている。いずれの会計処理が適切であるのかは、暖簾から生み出される超過収益力の減少をどのように捉えるかの違いに起因するものであり、会計理論上決着を付けることは容易ではないことから、両会計処理の妥当性をめぐっては今なお論争が続いている。そこで、本研究では、まず、日本基準と国際会計基準が依拠してきている会計上の論拠を確認する。そのうえで、両基準のそれぞれが規定している会計処理について、財務諸表上にあらわされる情報内容や問題点を実証的な調査を行うことによって、それぞれの会計処理が日本基準のもつ情報内容にどのような影響を与えるのかという証拠を示す。これらの作業を通して、暖簾の償却・減損の会計処理について、日本基準下での独自の会計処理を今後も踏襲していくのか、あるいは国際会計基準下での会計処理を日本基準下でも採用するよう改訂していくことが検討されるのか、という現在の論争に対して、1つの方向性を示すことができるのではないかと考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究を実施するために必要な資料・データは、次のとおりである。 (1)日本基準と国際会計基準の下での暖簾の償却・減損についての基準内容の変遷経緯と現状、および両基準が依拠してきている会計上の論拠についての資料を収集する。 (2)会計方針に関する注記情報を、有価証券報告書やアニュアルレポートの財務諸表注記から入手する。またそれらについての関連情報も併せて書籍などからも入手する。 (3)両基準の下でのそれぞれの会計処理による影響を定量化するための財務データを入手する。暖簾の情報(暖簾の計上金額、償却額、減損額)、その他財務情報(純資産、利益、他)、株価情報。 これらの資料・データは国内外の大学図書館や研究所等で入手する予定である。これらの入手に係る費用を本年度の研究費として計上している。
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