本研究は、森林吸収クレジット取引とその会計処理の実態を調査するとともに、そのクレジットを用いたさまざまな林業再生支援活動を分析・検討することにより、森林のCO2吸収機能に起源をもつオフセット目的のクレジットの財務的効果が、実際にどれほど「見える価値」として存在しうるのかを、クレジット組成の取り組みをすすめる個人林家・企業やそれらの取引を仲介しこのクレジットを用いて事業再生を企画するコンサルタント・金融機関等への調査によって実証的に検証し、その効果が危機的状況にある日本林業の再生にどのように貢献しうるのかを提示することを目的とした。 最終年度は、震災および原発事故発生以降の景気低迷によるカーボンマーケットの冷え込みから徐々に立ち直りつつある環境の下、研究計画の遅延による影響を最小限におさえるために、先に経営破綻した主要なデータソースであった林業会社に代えて、新たに複数の大規模個人林業事業者の協力を得ながら、森林吸収クレジットの組成にかかる収益・費用構造の分析を行った。また、マーケットの状況が改善しつつある中にあって、主にカーボン組成に関与してきた金融機関関係者に対してインタビュー調査を積極的に行い、「震災後」の市場動向と、そのなかでの森林吸収クレジットのポジショニングと今後の方向性について、数値および非数値のデータを入手し分析した。さらに、この間国内では、森林吸収に由来するクレジットを組成するスキームが他のクレジットのスキームと統合されて新たに統合的なクレジット制度が発足したが、その動向について分析するとともに、ここ数年で進展した海外での新たなクレジット制度についてもフォローすることで、これらの間の比較検討を行った。 得られた研究成果は、今年度中に取りまとめて公刊し、今後の森林吸収クレジットの研究および実務上の制度設計に対して重要な示唆を与えうると考える。
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