研究課題/領域番号 |
23530619
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
小林 多寿子 一橋大学, 社会(科)学研究科, 教授 (50198793)
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研究分担者 |
桜井 厚 立教大学, 社会学部, 教授 (80153948)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 質的データ / アーカイヴ化 / ライフストーリー / インタビュー / 調査遺産 / 社会調査法 / データ二次利用 / デジタル・データ化 |
研究概要 |
本研究は、1970年代末のライフストーリー法リバイバルより約30年たつ現在、ライフストーリー研究で蓄積されてきた数多くの質的データを<調査遺産>とアーカイヴ化という新たな観点から捉え直し、より信頼性の高い質的社会学研究法としてライフストーリー法の基盤を固めるための経験的研究である。ライフストーリー研究者への現状調査や他領域でのアーカイヴ実態調査を通して、質的データとしてのライフストーリー・アーカイヴ化の方途を検討し、検証可能性を担保し二次利用を拓くためのアーカイヴ・ルールの確立と歴史的価値を持ち始めた<調査遺産>の継承可能性を探求し、ライフストーリー法の汎用性を高めることをめざして初年度である平成23年度の調査研究に取り組んだ。 本研究では、質的データとしてのライフストーリーのアーカイヴ化問題を、1.社会調査としてのアーカイヴ化、2.<調査遺産>としてのアーカイヴ化、3.個人的語りの歴史的価値に鑑みたアーカイヴ化というこれら3つの局面に整理して進めることを念頭におき、具体的には、(1)ライフストーリー研究者への現状調査、(2)国内のアーカイヴの実態調査、(3)欧米の大学のアーカイヴ事例調査、という3つの調査を実施して実態の把握とアーカイヴの可能性を考えることを計画した。平成23年度は、とくに(1)については質的調査に携わる研究者へのアンケート調査を実施し、また<調査遺産>調査として80歳代の社会科学研究者へのインタビュー調査をおこなった。(2)として、日本でのアーカイヴ実態調査として公立の公文書館でのアーカイヴ資料の利用やアーカイヴズ・シンポジウムへの参加や研究代表者所属の一橋大学での大学アーカイヴズ・プロジェクト活動に関わった。(3)として、アメリカとイギリスの大学でのアーカイヴ事例調査をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、3年間の期間中、1、2年目はおもに現状把握のアンケート調査とインタビュー調査、アーカイヴ機関での実態調査と事例調査を実施し、3年目にはアーカイヴ化の具体的可能性をアーカイヴ試作の形で提示するとともに、<調査遺産>をめぐるシンポジウムの開催、研究成果の学会発表や印刷物での公表に取り組む計画でスタートした。平成23年度は、1.ライフストーリー研究者へ質的データの管理保存公開をめぐる状況と考え方を問うアンケート調査を日本オーラル・ヒストリー学会、生活史研究会やライフストーリー研究会の会員に対して郵送調査により実施した。送付数は350通、回答数は133通で、回収率約38%であり、まずまずの手ごたえであった。質的データを扱う学会や研究会ならでの意見が寄せられ、高い関心を持たれていることが明らかになった。さらに長期にわたって質的調査に従事して多くの研究成果を出してきた研究者への個別インタビューに着手し、家族社会学者と歴史学者へ継続的インタビューを実施し、<調査遺産>をいかに継承するか検討している。2.国内外における調査データ・アーカイヴやライフストーリー・アーカイヴ等を現地訪問し、ヒアリングによる実態調査を実施した。アメリカのハーバード大学マーレイ・リサーチセンターとコロンビア大学オーラルヒストリーセンター、イギリスのサセックス大学マス・オブザベーション&ライフヒストリー・リサーチセンターを訪問し、調査データの管理保存公開についてヒアリング調査をした。国内では沖縄県公文書館においてアーカイヴ・データ利用の可能性を調査した。3.アーカイヴ実践に関する講演会を開催した。質的データを扱った先駆けであるフランスの社会学者ダニエル・ベルトー氏によるライフストーリー法についての講演会を催し、参加者と議論を交わし、大きな反響を得た。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進の方法について、次の三点をあげたい。1.研究体制の強化を図ること、2.23年度の調査の継続と充実を図ること、3.調査対象者への成果の還元による議論の進展を図ることである。 1については、平成23年度は研究代表者である小林多寿子(総括・推進、現状調査、実態調査、事例調査)と研究分担者である桜井厚(現状調査、実態調査、事例調査)が中心となり、連携研究者として井出裕久(大正大学人間学部人間科学科教授)、研究協力者として小倉康嗣(慶應義塾大学講師/NPO法人サーベイ理事)で調査に取り組んだが、24年度は二人に研究分担者として加わってもらうことで研究組織を再編成し、現状調査とアーカイヴ化の検討により十全に取り組める研究体制を強化する。 2.23年度に実施したアンケート調査と<調査遺産>調査の継続と充実を図る。アンケート調査のまとめとインタビュー調査の継続、さらに<調査遺産>についてインタビュー調査をより広く実施する。 3.日本オーラル・ヒストリー学会や生活史研究会ではアンケート調査の結果への関心が高まっているので、調査対象者へ成果を示し、それをもとに議論を深める機会を設けたい。以上のような調査と並行して国内外のアーカイヴ訪問調査も継続して実施する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の未使用額1,567円は端数である。平成24年度は、23年度に実施したアンケート調査のまとめと自由記述欄をもとに重要な意見を表明している研究者にインテンシヴなヒアリング調査をおこなう。また日本国内外で実態調査と事例調査を継続し、23年度のライフストーリー研究者の実態調査の中間結果をまとめ、その結果を調査対象とした研究会で公開して質的データのありかたをめぐるワークショップを開く。また<調査遺産>の研究にも力を注ぐことを考えている。したがってアンケート結果の集計分析のための機器や人件費、インタビューの実施に関わる諸経費が見込まれる。平成25年度は、1.実態調査と事例調査の補足調査と調査結果の分析検討、2.成果発表、3.報告書作成を計画している。とくに2.成果発表については、本研究での調査結果をふまえて質的調査に関わる今後のありかたを問うために、<調査遺産>をテーマにしたシンポジウムを開くことを考えている。その成果発表もふまえて調査結果を総括し、3.報告書の作成に取り組み、研究成果の社会への還元のために印刷物にまとめることも準備したい。質的アーカイヴの試作例の提示と<調査遺産>の考え方の幅広い理解をめざす。そのために実態調査の補足に関わる調査費用に加えて、調査成果の印刷とデジタル化とデジタル構築のための諸経費、シンポジウム関係経費が見込まれる。
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