研究課題/領域番号 |
23530625
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
出口 剛司 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (40340484)
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研究分担者 |
赤堀 三郎 東京女子大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (30408455)
飯島 祐介 東海大学, 文学部, 講師 (60548014)
伊藤 賢一 群馬大学, 社会情報学部, 准教授 (80293497)
高橋 知子 (渡會 知子) 横浜市立大学, 国際総合科学部, 准教授 (10588859)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 社会学の公共性 / 理論と実践 / 規範理論 / 社会システム論 / 批判的社会理論 |
研究概要 |
研究分担者を中心としてドイツ批判的社会理論及び社会システム理論の研究に取り組んだ。批判的社会理論の文脈では、第一に初期ハーバーマスの市民社会論の思想史的再検討を行い、その中心となる民主的公共性の概念が当時のドイツ国法論における法・統治体制を巡る論争との対決から形成されたことを明らかにした。第二に世界的な多文化主義の広がりを背景に、ハーバーマス市民社会論における宗教論の位置を明らかにし、その実践的意義をパーソンズの宗教論との対比から解明した。第三にグローバリゼーションが進展する中で、国民国家の制約を超えた市民的公共性の実現可能性に関する理論研究を行い、EU域内における意思決定の問題に社会学理論が貢献しうる可能性と限界について明らかにした。さらに社会システム論の文脈では、ドイツにおける移民政策及びリスク管理の問題に注目し、社会学理論が提供する現実認識と政策批判に関する経験的分析を行った。研究協力者を交えた研究会(社会学思想史研究会)を毎月開催し、上記課題に加えて、ウルリヒ・ベックのリスク社会=個人化論の学説研究、さらにフランス社会学における国家、市民社会、協同組合に関する思想史=学説史的研究を行った。フランス社会学の分野では、アルチュセールの国家論における「社会」概念の発掘とその意義の検討及びデュルケムにおける国家論、協同組合論の社会史=思想史的研究を行い、その理論的アクチュアリティを明らかにした。また研究代表者及び分担者が中心となって、学会定例研究会及びテーマセッションを企画し、2011年度日本社会学会大会テーマセッション「実践からの社会学理論の生成と変容:学説はいかなる現実を立ち上げてきたのか」、日本社会学理論学会定例研究会「現代社会理論とシステム理論:ニクラス・ルーマン理論をどう活かすか」、同大会シンポジウム「社会の危機:社会学理論の挑戦」において成果報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「社会学の公共性」の実現に向けて、ドイツ及びフランス社会学の基礎研究を実施することが本科研の中心的な課題となる。研究初年にあたる本年度は、ドイツ批判的社会理論研究において、研究分担者及び協力者が中心となって初期ハーバーマス、ベックの市民社会論、リスク=個人化論の理論研究を行い、フランス社会学ではアルチュセール、デュルケムを題材とした「国家」「社会」「共同組合」という「公共性」をめぐる主要概念の検討に着手している。またドイツ社会学に属するルーマンのシステム理論研究においては、基礎研究に属するセカンドオーダー問題の検討に加えて、移民政策や災害リスク管理の場面における同理論の有効性を経験的に検証する作業にも着手している。今年度は、公共性をめぐる独仏の学説史的研究状況の概要を把握し、各対象理論のアクチュアリティを提示することに成功したと判断できる。またこうした成果は、各分担者が単独で行ったものではなく、月例の研究会(社会学社会思想史研究会)を通して研究分担者及び協力者の間で共有され、達成したものである。さらに各分担者が単独で成果公表を行うだけでなく、学会の定例研究会、テーマセッションの企画を通して外部への成果発信に取り組むことによって、より大きな研究成果を達成しつつある。以上の研究成果及び成果公表の実績からみて、現時点において本科研プロジェクトは「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年にあたる2011年度に着手したドイツ(批判的社会理論、社会システム論)及びフランス社会学(アルチュセールの国家論、デュルケムの国家論=協同組合論)の基礎研究を、思想史的、社会史的視座を導入することにより発展させる。とくに戦後のヨーロッパ社会学の「アメリカ化」という歴史的展開を踏まえ、戦後のアメリカ文化の普及及びアメリカ社会学理論の動向との関連で、今年度の研究成果をより深化させていく予定である。アメリカ社会学の中でも、最もドイツ社会学に強い影響を与えたタルコット・パーソンズのシステム論的思考に注目することで、批判的社会理論と社会システム論との共通性を明らかにする。さらに2011年度より検討を開始したジンメル社会学の「社交」概念を軸に、ドイツ市民社会論の系譜を新たな視座からとらえなおす作業にも着手する。本科研研究会(社会学思想史研究会)全体の課題としては、プロジェクトの中心的な概念である「社会学の公共性」について、政策形成とのかかわりから再検討を行い、各分担者、協力者の研究成果の総合化に取り組む。その際、ベックのドイツ実証主義論争に対する見解、個人化論とのかかわりを解明することで、初年度において十分考慮できなかった社会学における価値判断の問題、政策実践への貢献など、理論と実践問題に対する新たな視点を導入することをめざす。これからの研究成果を以下の研究費使用計画で示すように、各種学会大会で公表する一方、積極的に学会誌等に学術論文の形で投稿していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究プロジェクトは、理論、学説研究を中心としているため、予算は主として書籍購入及び成果発表のための出張旅費として執行する予定である。書籍に関しては「社会学の公共性」に関連する社会学及び周辺領域の専門書を購入することを予定している。また成果発表については、昨年度に引き続き、今年度も学会大会におけるテーマセッションを企画し、代表者、分担者、協力者が共同で参加し報告を行う(ただし、報告に関しては独立して個別に登壇する)。現在参加を予定している主たる学会出張は、札幌学院大学開催の2012年度日本社会学会大会(テーマセッションを申請、企画中)及び、立命館大学開催の2012年度日本社会学理論学会大会である。本研究と最も密接にかかわっている日本社会学史学会大会は、今年度の開催予定地が千葉県(千葉経済大学)であるため、旅費はほとんど発生しない。これら国内における学会報告に関しては、各研究分担者が独自に予算執行を行うが、研究協力者の旅費については原則として研究代表者の管理する予算より執行する。さらに研究代表者、分担者を中心にドイツ、ヨーロッパ等での理論・学説史研究に関連する資料収集、学会報告、研究交流等を予定している。また同じく代表者、分担者を中心に、2014年度の世界社会学会議(ISA)の横浜における開催を念頭において、2012年度の海外における資料収集、国際会議等に参加する機会が増えることが見込まれる。
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