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2012 年度 実施状況報告書

技術的環境における希薄な身体の身体的基盤―医療と学習の相互行為分析

研究課題

研究課題/領域番号 23530627
研究機関明治学院大学

研究代表者

西阪 仰  明治学院大学, 社会学部, 教授 (80208173)

キーワード相互行為 / 身体 / 災害 / ボランティア / 在宅医療 / 学習 / 就労支援
研究概要

本年度(2012年度)はおもに3つの調査研究を行なった.第1は,前年度から開始した「福島県下における避難住民とボランティアの相互行為」の調査研究である.いわゆる「足湯ボランティア」活動における相互行為をビデオに収録することを継続するとともに,2011年度までに収集したデータ(40ほどの相互行為のビデオ)を集中的に分析し,日本社会学会で報告するとともに,一冊の書物にまとめることができた(2013年6月に刊行予定).とくに震災・原発事故から一年以内のボランティア活動参加者は,初心者が多い.かれらが初めてのボランティア活動でありながら,それをやりぬいていくための,いくつかの技法(話題展開の技法,共感の技法など)を明らかにするとともに,とくに「足湯ボランティア」が初心者にとって有利な(避難住民との)コミュニケーション方法であるゆえんを明らかにした.
第2は,「在宅医療における相互行為」の調査研究である.在宅マッサージの派遣会社の協力を得て,15例ほどの在宅マッサージをビデオに収録し,分析成果を一部公開することができた.この2つの研究は,身体接触を伴う相互行為の研究という共通点を持つ.身体接触を伴う相互行為の研究は,研究代表者の産婦人科における相互行為の研究を引き継ぎつつ,音声・視覚・触覚という異なる様式の資源を用いた活動の組織の研究という点で,独特の意味を持つ.在宅医療に関しては,その活動の組織を丹念に解明することで,在宅医療における「コミュニケーション教育」に資する知見を得ることができると考えている.
第3は,「未就労の若者の就労支援におけるカウンセリング」の調査研究である.いわゆる「ニート」と呼ばれている若者たちの支援において,かれらがどのように自らの「コミュニケーション能力」を発揮しているかを明らかにしようと考え,とりあえず,4例ほど,ビデオ収録を行なった.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

2011年3月の東日本大震災を受け,同年4月に本研究の採択が決まって以来,本研究の焦点を,福島県における避難住民とボランティアの相互行為に絞ってきた.とくに「足湯ボランティア」は,身体接触を伴う相互行為という点において,相互行為における身体の意味が明らかになるような場であった.また,ボランティアの初参加者の学習という観点からも,本研究課題に非常に適合的なものであった.一方,原発事故からの避難住民にとってコミュニケーション支援はますます重要となるだろう.そのなかで,一冊の書物をすばやくまとめえたことは,計画以上の進展と評価できる.同時に,国際的に最も権威ある社会学会であるアメリカ社会学会の2013年年次大会において,このテーマに関する,代表者と研究協力者の計3本の研究報告が採択された.避難の現場において起きていることを,海外に発信するよい機会であると考えている.
また,超高齢化社会において在宅医療は今後決定的に重要となるだろう.その現場にビデオを持ち込んで,15ほどの事例を収録できたことも,大きな成果である.予備調査において収録した4事例をもとに,中間報告書をまとめることもできた.

今後の研究の推進方策

「福島県下における避難住民とボランティアの相互行為」の研究については,8月に,国際エスノメソドロジー・会話分析学会およびアメリカ社会学会で,代表者および研究協力者により合計8本の研究発表を行なう予定である.また,まだ分析しきれていないデータについての分析も進める予定である.とくに,震災から時間がたつにしたがって相互行為のパターンにどのような違いが見えるかなども,分析の焦点となりうるだろう.〔研究協力者: 須永将史,早野薫,黒嶋智美,岩田夏穂〕
「在宅医療における相互行為」の研究については,すでにいくつかの分析課題(痛みの表明がどのようになされるか,患者が問題を提示するときどのようなやり方を用いるか,マッサージの手順に関する施術師の発話はどのようになされるか,など)を整理してあるので,それらについて分析を進め,報告書をまとめていく.必要に応じて,補足的なデータ収集(ビデオ収録)を行なう.また,分析結果を,在宅医療における「コミュニケーション教育」に資するような形でまとめ,協力いただいた企業に対して研究成果の還元を試みたい.そのなかで,身体接触を伴うコミュニケーションの学習に関する理論的な知見も得たい.〔研究協力者: 早野薫,黒嶋智美,須永将史,坂井愛理〕
「若者就労支援のカウンセリング」の研究に関しては,とりあえず,本研究では予備調査にとどめ,2013年度より,本研究の研究協力者の1人を代表者とする,この研究に特化した基盤研究(C)が採択されたため,そちらにおいて本調査を行なうこととした(本研究の代表者は分担者として参加している).

次年度の研究費の使用計画

最終年度であるため,海外での成果報告に多くの部分を使うことにしたい(40万円程度).上にも述べたように,福島のボランティアの活動の分析を海外で発信することの意義は大きいと考える.補足的なデータ収集の必要が生じた場合,そのための交通費,謝金などが必要となる(10万円程度).また,福島県における相互行為研究を次に発展させるための手がかりを得るため,福島県における参与観察的な調査研究も計画している.そのための旅費等も必要となる(10万円程度).その他,分析のためのワークショップに講師を招聘する予定である(別のプロジェクトで来日予定のスイスのバーゼル大学ロレンザ・モンダダ教授より内諾を得ている).そのための謝金が必要となる(10万円程度).

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2013 2012 2011 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (8件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] 在宅医療の相互行為2013

    • 著者名/発表者名
      西阪仰,黒嶋智美,早野薫,須永将史,坂井愛理
    • 雑誌名

      研究所年報

      巻: 43 ページ: 9 - 23

  • [雑誌論文] Distribution of visual orientations in prenatal ultrasound examinations: When the healthcare provider looks at the pregnant woman's face2013

    • 著者名/発表者名
      Nishizaka, Aug
    • 雑誌名

      Journal of Pragmatics

      巻: 未定 ページ: 印刷中

    • DOI

      DOI: 10.1016/j.pragma.2013.02.007

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Doing 'being friends' in Japanese telphone convesations2012

    • 著者名/発表者名
      Nishizaka, Aug
    • 雑誌名

      Interaction and Everyday Life: Phenomenological and Ethnomethodological Essays in Honor of George Psathas

      巻: 1 ページ: 297 - 259

  • [雑誌論文] Response expansion as a practice for raising a concern during regular prenatal checkups2011

    • 著者名/発表者名
      Aug Nishizaka
    • 雑誌名

      Communication & Medicine

      巻: 8(3) ページ: 247–259

    • DOI

      10.1558/cam.v8i3.247

    • 査読あり
  • [学会発表] The Interactional Organization of Multiple Activities in "Footbath Volunteer Activity" in Fukushima2013

    • 著者名/発表者名
      Nishizaka, Aug
    • 学会等名
      American Sociological Association
    • 発表場所
      New York
    • 年月日
      20130810-20130813
  • [学会発表] Making a Complaint in Evacuee-Volunteer Interaction2013

    • 著者名/発表者名
      Hayano, Kaoru
    • 学会等名
      American Sociological Association
    • 発表場所
      New York
    • 年月日
      20130810-20130813
  • [学会発表] The sequence organization of empathy: An analysis of the evacuee-volunteer interaction in Fukushima2013

    • 著者名/発表者名
      Kuroshima, Satomi
    • 学会等名
      American Sociological Association
    • 発表場所
      New York
    • 年月日
      20130810-20130813
  • [学会発表] 福島県における避難者とボランティアの相互行為 (1)2012

    • 著者名/発表者名
      須永 将史
    • 学会等名
      日本社会学会
    • 発表場所
      札幌学院大学(札幌)
    • 年月日
      20121103-20121104
  • [学会発表] 福島県における避難者とボランティアの相互行為 (2)2012

    • 著者名/発表者名
      早野 薫
    • 学会等名
      日本社会学会
    • 発表場所
      札幌学院大学(札幌)
    • 年月日
      20121103-20121104
  • [学会発表] 福島県における避難者とボランティアの相互行為 (3)2012

    • 著者名/発表者名
      西阪 仰
    • 学会等名
      日本社会学会
    • 発表場所
      札幌学院大学(札幌)
    • 年月日
      20121103-20121104
  • [学会発表] 福島県における避難者とボランティアの相互行為 (4)2012

    • 著者名/発表者名
      岩田 夏穂
    • 学会等名
      日本社会学会
    • 発表場所
      札幌学院大学(札幌)
    • 年月日
      20121103-20121104
  • [学会発表] 福島県における避難者とボランティアの相互行為 (5)2012

    • 著者名/発表者名
      黒嶋 智美
    • 学会等名
      日本社会学会
    • 発表場所
      札幌学院大学(札幌)
    • 年月日
      20121103-20121104
  • [図書] 共感の技法: 福島県における震災コミュニケーション・ボランティアの会話分析2013

    • 著者名/発表者名
      西阪仰・早野薫・須永将史・黒嶋智美・岩田夏穂
    • 総ページ数
      印刷中
    • 出版者
      勁草書房
  • [備考] 2011科研費プロジェクト

    • URL

      http://www.meijigakuin.ac.jp/~aug/kaken_11.html

URL: 

公開日: 2014-07-24  

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