本年度は,2つのフィールドを軸に展開した.ひとつは,2011年の東日本大震災とそれに続く津波・原発事故によって避難を余儀なくされた人びとボランティアとの相互行為の研究である.これは「足湯ボランティア」と呼ばれ,避難住民が足を湯につけている間に,ボランティアが手のマッサージを行なうというものである.もうひとつは,在宅マッサージにおける相互行為の研究である.これは,有資格の施術者が患者宅を訪れ,マッサージ治療を施すというものである.いずれのフィールドも,身体接触をともなう相互行為場面であり,本研究のテーマである「相互行為の身体的基盤」を解明するのにふさわしいものである. 前者の研究(足湯)では,マッサージは素人のボランティアによって行なわれる.それは,簡単な指導を受ければ誰にでもできる.しかし,マッサージをしながら,初対面の避難住民と会話を進めることを,ボランティアたちはどう実現しているのか.例えば,ボランティアは,マッサージの進行を会話の進行に合わせて調節することで,会話の進行の停滞を最小化する一方,マッサージを,相互行為全体を支える基底として利用していた.この知見は,2013年7月に刊行された『共感の技法』(勁草書房)の重要な知見の1つでもあった(1~3章).2つの英語論文を作成し,投稿した. 在宅マッサージは,それに対して,マッサージ自体が高度な技術となっている.そこでも,様々な会話が同時に進行するが,(「足湯」の場合と異なり)マッサージの進行のなかに会話の進行が埋め込まれているのが観察できた.例えば,研究協力者の須永将史は,マッサージの進行に応じて,痛みの有無を聞く質問であっても,肯定疑問文(「痛いですか」)と否定疑問文(「痛くないですか」)が体系的に使い分けられることを見出している.協力いただいた在宅医療の団体に向けた79頁の報告書をまとめ,送付した.
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