研究課題/領域番号 |
23530628
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研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
湯浅 陽一 関東学院大学, 文学部, 准教授 (80382571)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 財政社会学 / 自治体財政 / 公共圏 |
研究概要 |
平成23年度は、本研究の目的と研究実施計画に基づき、北海道での調査と2度の青森県での調査をそれぞれ実施した。北海道調査では、公共政策学会(調査実施者は非会員)において、夕張市などの旧産炭地域の振興に関する複数の研究者による講演・報告を聴取し、合わせて、図書館等での資料の収集を行った。研究者による報告の聴取では、旧産炭地の活性化に向けた民間団体による取り組みの状況を確認した。また、資料の収集においては、昭和30年代に遡ったものも含め、夕張市の財政関連データの収集を進めた。青森県の調査では、県議会関係者や県庁関連部局などへの聞き取り調査を行い、合わせて、図書館等での資料の収集を行った。聞き取り調査では、核燃サイクル関連施設の立地自治体である青森県の原子力事業に対する姿勢、および青森県の財政状況に関する情報の収集を進めた。青森県の関係者については、原子力発電や核燃サイクル事業の推進に肯定的な見解を持つ人が多いことが確認された。研究の成果については、「原子力発電所の立地が生む相反関係-電力システムと地域社会システムの関係性-」『関東学院大学文学部 紀要』第124号:1-36を公表した。本研究では、従前から、電源三法交付金などエネルギー関連の助成金が自治体財政および地域社会に対して与える影響を研究対象として組み入れている。本論文では、近年における電力の生産と供給の在り方への関心の高まりをふまえつつ、電力に関わる諸主体や諸制度によって構成される電力システムと、原子力発電所などを受け入れる地域社会のシステムとの関係について、電源三法交付金などの助成金の機能を中心に検討した。その結果、電源三法交付金などは、当該自治体の財政の長期的な安定性をもたらすものではなく、さらには、むしろその不安定さゆえに、地域社会システムが電力システムに従属せざるを得なくなることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一部の調査に関し、日程上の事由などにより、実施を平成24年度に繰り越した。この調査については、平成24年度に実施する計画である。同時に、これまでに収集したデータの解析などについては、以下に述べるような形で順調に進展している。本研究では、地方自治体財政が持続可能なものとなるための条件を探ることを目的としている。その際、現在の地方財政制度や、自治体を取り巻く経済的な諸環境などが、自治体の目線から捉えて、どのようなものとなっているのかを明らかにすることを重視する。この目的に照らすと、本研究は、旧産炭地自治体財政に関して、いわゆる三位一体改革や市町村合併の推進など、近年における自治体財政の強化を意図した政策が、かえって重荷となっていることを明らかにするところまで到達している。この点は、夕張市と同様の立場にある歌志内市が、近隣自治体との合併を試みながらも、財政事情の悪さゆえに合併の断念に至っているということなどから示唆される。また、本研究は、原子力関連施設の立地自治体の財政に関し、電源三法交付金などの財政収入が地域社会にいかる影響を与えているのかを明らかにし、その成果を継続的に公表できる段階に達している。原子力関連施設の立地については、当初は反対運動が強かった自治体であっても、施設が立地・稼働し、財政収入が得られるにしたがい依存を強め、原発の増設を陳情するようになるという変化が認められる。これらの変化は、立地に伴う財政収入が地域社会の公共圏に対して何らかの影響を与えたことによるものと捉えられる。この変化の動向を分析することで、真に持続可能な自治体財政の成立条件を明らかにすることが期待できる。以上のような研究の到達状況から、本研究は概ね順調に進展しているものと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
夕張市などの旧産炭地自治体、青森県および同県六ヶ所村などの原子力関連施設の立地自治体、および比較対象としてのイギリスにおける調査を引き続き進めていく。とくに福島第一原発事故以降、原子力関連施設の立地受け入れにあたって交付される電源三法交付金や固定資産税などの収入が、立地自治体の財政に与える影響に関心が高まっていることを受け、これらの自治体に対する調査を拡大し継続していく。具体的には各地の原子力発電所立地自治体を調査対象に加え、電源三法交付金や固定資産税など、原発関連の収入が当該自治体の財政に与えた影響について分析し、自治体間の比較分析作業を行う。分析にあたっては、「決算カード」などにより原発運転開始以前(おおむね昭和40年代前半)にまで遡り、電源三法交付金や固定資産税などの収入が自治体財政に与えた影響を長期的に把握していく。さらに、各自治体での首長選挙の結果などと組み合わせ、財政状況の変動が自治体内での議論の動向に与えた影響を把握するという手法をとる。とくに、原発の安全性や自治体財政のあり方に関する議論の動向に注目する。同様の手法による分析は旧産炭地自治体にも適用し、財政悪化の経緯や、それに対する取り組みの帰結などを把握するとともに、原発立地自治体との比較を行う。また、原発立地自治体の現地での聞き取り調査に関しては、原子力発電をめぐる社会情勢が緊迫していることから、調査の申込みを拒否されるなどの困難に直面することが予想される。その反面、新聞社などによる取材とそれにもとづいた報道は数多くなっていることから、これらの報道内容を積極的に収集することと合わせ、現地の事情に精通した新聞記者などを聞き取り調査の対象に加えることで、データの不足を補う方策をとっていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費:社会学関連文献、財政学関連文献、エネルギー関連文献、および調査において使用するPC関連機器および記録用機器の購入を計画している。合計で40万円の使用を予定している。旅費:北海道(札幌市、夕張市および周辺の旧産炭地)と青森県(青森県、六ヶ所村)の他、原発立地自治体への調査を実施する。今年度は佐賀県(佐賀市、玄海町)、福井県(福井市、おおい町、高浜町、美浜町、敦賀市)への調査を計画している。平成23年度からの繰り越し金を含め、合計で86万円の使用を予定している。謝金:資料整理の作業を学生アルバイトに依頼する。合計で10万円の使用を予定している。その他:資料複写費、調査地におけるレンタカー代等の支出を計画している。合計で10万円の使用を予定している。
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