研究課題/領域番号 |
23530628
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研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
湯浅 陽一 関東学院大学, 文学部, 准教授 (80382571)
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キーワード | 財政社会学 / 自治体の財政破綻 / 高レベル放射性廃棄物 / 社会システム / エネルギー |
研究概要 |
平成24年度は、「How do social systems treat and dispose nuclear waste?-A comparison of general and radioactive wastes-」(『関東学院大学文学部紀要』第127号、39-54)を執筆、公表した。本論文は、高レベル放射性廃棄物処理に焦点を当て、一般廃棄物処理の事例と比較しながら、社会システムの視点から分析を行ったものである。日本国内に限ったことではないが、使用済み核燃料やガラス固化体という高レベル放射性廃棄物の最終処分場は、候補地を探しても周辺住民や自治体の反対が強く、建設地が確保できない状態にある。この事態に対し政府は、補助金のメニューを充実させることで、受け入れ自治体を探そうとしている。受け入れ第一段階である文献調査の手続きにまで進んだ自治体はないが、過疎化と高齢化、財政難に苦しむ複数の自治体が関心を示している。こうした自治体の動向の背景には、周辺部に位置する自治体の財政にとって地域の運営や活性化が重荷となるという、旧産炭地における財政破綻と同じ社会的メカニズムの作用がある。このメカニズムは、本研究が一貫して研究対象としてきたものである。本論文ではこの点をふまえ、かつて「東京ごみ戦争」と呼ばれた一般廃棄物処理をめぐる紛争から「自区内処理の原則」という規範が形成され、各地に処理施設が設置されたことに注目し、高レベル放射性廃棄物の処理においても、自治体の財政難に可能性を見いだすような候補地探しでなく、新たな規範の形成を含めた施策が必要であると指摘した。 このほか、各地の原発立地自治体などにおいて、研究計画に記載した調査活動を行った。これらの調査によって得られたデータの解析を、とくに自治体の財政状況の変遷と地域社会への影響に焦点を合わせながら進めている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、佐賀県玄海町や、福井県敦賀市、大飯町、高浜町、美浜町、茨城県東海村といった原発立地自治体について、立地の受け入れ前後から今日に至るまでの財政情報を収集し、合わせて現地の踏査を行った。平成23年度に引き続いて、財政データの収集と分析は着実に進んでおり、以下に示すように分析の第一段階は完了しつつある。これまでの分析では、政府からの交付金よりも施設立地による固定資産税による効果が顕著であり、固定資産税が入る施設稼働2年目に歳入総額や財政力指数が急上昇し、その後、これらの数値が減少していく傾向がはっきりとみられる。また、多くの自治体では複数の原子炉を設置しているが、新規に立地されると、減少傾向にあった歳入の大幅な改善がみられるようになる。固定資産税による歳入は、従前の自治体財政規模に比べると極端なまでに巨額であり、原発立地自治体では、落差の大きな歳入の増減が繰り返されている。研究の進展により、このような知見が得られたことを踏まえ、今後の分析では、第二段階として、こうした歳入状況と連動している歳出内容を分析し、このような歳入の増減が歳出に対してどのように反映しているのかを明らかにする。さらには第三段階として、こうした歳出の変化が地域社会にどのような影響を与えているのかを明らかにしていく。 これまでに進めてきた、旧産炭地の財政破綻と原発立地自治体の財政状況に関する研究は、特定のエネルギー産業に地域社会が過度に依存してしまうことがいかに危険であるのか、そしてその依存が日本の地方行財政制度が抱える課題に構造的に由来していることを示唆している。こうした状況を克服していく方法として、本研究では、分散型の再生可能エネルギーの普及による地域活性化の可能性を探っている。問題の構造の解明から解決策の提示をめざしつつ研究は進展しており、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、研究代表者が英国に長期滞在しているため、英国での研究活動を中心に行う。日本国内の自治体の財政に関する研究については、すでに入手した財政データの分析を、とくに歳出面に焦点を当てながら進めていく。英国内では、本研究計画が当初より、日本と英国の事例との比較研究という視点を取り入れていることをふまえ、旧産炭地と原子力関連施設の立地自治体を対象とした研究を進めていく。具体的な研究対象としては、旧産炭地については当初の計画にもとづきノッティンガム(Nottingham)州をとし、原子力関連施設の立地地点としては、集中立地地域であるセラフィールド(Sellafield)を抱えるカンブリア(Cumbria)州を中心的な対象とする。とくにカンブリア州では、2013年1月末に、州政府が、高レベル放射性廃棄物の最終処分場の建設受入を拒否する決定を下している。英国においても、日本と同じように、高レベル放射性廃棄物最終処分場の建設に関しては、自治体に対する様々な支援メニューを充実させ、地元の「自発的」な受入を促すという方法を取っている。これまでのところ関心を示している自治体は、少数であるが、社会・経済状況の思わしくないところが多い。その背景には、都市と地方の格差、地域の活性化策に苦しむ自治体といった、日本と類似した構図がみられる。しかしながら、英国と日本では、地方行財政の構造は異なっており、このことが高レベル放射性廃棄物処分場の受入をめぐる動きに大きな影響を与えていると考えられる。今年度はこの点について注目しながら英国の地方行財政制度に関する分析を行う。そして、ここで得られた知見も盛り込みながら、旧産炭地をはじめとする周辺地域の地域活性化策についても検討を加えていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、研究代表者が英国に長期滞在しているため、英国内および近隣の欧州諸国での調査研究を中心に行う。研究活動においては、滞在先であるオックスフォード大学の図書館等を利用した作業に加え、現地での調査活動(ノッティンガム州、カンブリア州等)を行い、現地の社会・経済状況および財政状況を把握し、地域の振興策や原子力関連施設の受入をめぐる経緯などについての情報収集と分析を行う。合わせて、近隣諸国(北欧諸国、ドイツ、フランスなど)にも、多くの旧産炭地や原子力関連施設が所在していることから、これらの地域での調査も実施する。 したがって今年度交付予定の100万円の研究費のうち、70万円程度を調査のための旅費とする。あわせて、25万円程度を現地での文献購入などのための物品費とし、謝金とその他費用を5万円程度とする。謝金については、オックスフォード大学に留学中の大学院生など、調査研究への協力が可能な適切な人材が確保できれば行使することがありうるが、現時点では未確定である。その他費用の用途としては、現地調査の際に必要となる施設の見学費用や、複写費用での支出を念頭に置いている。
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