研究課題/領域番号 |
23530633
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
谷本 奈穂 関西大学, 総合情報学部, 教授 (90351494)
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キーワード | 身体 / 美容 |
研究概要 |
本研究の目的は、中高年女性が美容実践(美容整形や化粧)を通じて、どのようなアイデンティティを形成しているのかを明らかにすることである。平成24年度は、1文献・資料の収集、2メディアの内容分析、3整形経験者や医者に対するインタビューを行う予定であった。実際には1~8の通り研究を遂行した。 1:文献と資料の収集については予定通り行った。整形と化粧に関わる学術的な文献を収集し、学術だけではない女性向け雑誌や一般書などの文献も収集した。 2:美容に関わるメディア内容分析として、2000年代に発刊された女性雑誌の言説分析を行った。すでに論文にしており、現在、日本マス・コミュニケーション学会の学会誌『マス・コミュニケーション研究』からの依頼論文として投稿中である(掲載予定)。 3:美容皮膚科1名に対するインタビュー、および、美容外科医でNPO法人アンチエイジングネットワーク会長と打ち合わせも行った。 4:平成23年度に行ったアンケート調査(800名、25~65歳)を分析し、論文美容整形・美容医療を望む人々――自分・他者・社会との関連から」を執筆した。『情報研究』(関西大学総合情報学部)第37号(2012年9月20日)に掲載されている。 5:学会発表(個人)「ポピュラー文化ミュージアムとは何か(2)――化粧品を展示する困難と可能性」を第85回日本社会学会大会(2012年11月3日)で行った。 6:「化粧品のミュージアム――その困難と可能性――」『ポピュラー文化ミュージアム』ミネルヴァ書房(2013年3月30日)103-125頁を執筆した。 7:日本マス・コミュニケーションマルチメディア部会にて、女性と身体に関連する研究会を企画し実施した(2013年2月9日)。 8:日本心理学会内研究会で招待発表を行った。タイトルは「美容意識に関する一考察:美容整形を中心に」(2013年2月17日)である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、中高年女性が美容実践を通じて、どのようなアイデンティティを形成しているのかを明らかにするものである。そのために、四つの手法を用いて遂行する予定にしている。1国内外の文献調査、2一般の中高年女性へのアンケート、3中高年女性のうち、美容整形手術を経験した人、コスメフリークの人へのインタビュー、4メディア言説の内容分析。その際には、文献による理論研究とアンケート・インタビュー・内容分析による実証研究の両方を行うことに留意する。 平成24年度には、23年度に行ったアンケート調査から、論文を執筆している。この論文において、美容整形の同期となる意識を抽出できた。このことは平成25年度のアンケート調査、インタビュー調査に生かすことが出来る。 インタビューについては、インフォーマントはやや少なかったものの、美容皮膚科医、美容外科医とも、学界の重鎮と呼べる人に話が聞けたことは大きかった。ただし、もう少しインフォーマント数は増やしたいと考えている。 メディアの内容分析については、平成23年度に雑誌記事のテキスト入力を行ったことから、今年度はスムーズに分析に入れた。学会誌に掲載が予定されている論文を既に書き終えている。ミドルエイジ女性向けファッション誌の記事を分析し、メディアにおける美容意識を抽出した論文である。 さらに、これまで少しずつ行っていた化粧品を展示するミュージアム調査を論文にまとめ、日本社会学会で発表し、さらに単行本に「化粧品のミュージアム――その困難と可能性――」として掲載されている。 他にも、日本社会学会、日本心理学会、日本マス・コミュニケーション学会などで発表やワークショップなどを行った。したがって、全体として、おおむね順調に進展していると言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の本研究課題は、おおむね予定通りに遂行されていると言えるので、今後も、申請時と同じ推進方策をとる。「理論研究」として国内外の文献調査、「実証研究」としてアンケート調査、および美容整形手術を経験した人・コスメフリーク・美容外科医・美容皮膚科医へのインタビュー、メディア言説の内容分析の、両方を行う。最終的には、メディアと実際、若者と中高年などの比較検討を通じて、総括的な中高年女性のアイデンティティ像に迫っていくことにする。なお、翌年度に繰り越した研究費は、下記で説明するように、追加のアンケート(業者への謝金)、学会発表の旅費と参加費、インタビューの際の出張旅費と謝金に、あてることにしたい。 まずは、今後も引き続き、整形に関する文献・資料の収集を行う。 次に、アンケート調査を追加で実施する。23年度に実施し、24年度に分析して分かった点について、さらなる調査を進め、議論を深化させる予定である。質問項目に関しては、23年度のアンケートでは分かりづらかった面を認識し、修正することにしたい。 さらに、平成24年度もまとまってきた調査結果について学会発表を行ってきたが、引き続き学会などで発表を積極的に行う。社会学以外の学会にも参加して意見を交換する予定である。 そして、インタビュー調査を継続する。すでに整形経験者、および、美容外科、美容皮膚科に対し行っているが、コスメフリークや美容ライターと呼ばれる、化粧品について尋常ならぬ知識を持つ人々には、あまり聞き取りを行えていないので、25年度には行いたい。以上が、平成25年度の研究の推進方策である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、以前からの予定通りに書籍代、アンケートにかかる諸費用、インタビューにかかる諸費用、学会発表にかかる諸費用に研究費を充当する予定である。特に、アンケート、インタビューなど実証研究については、業者への支払いや謝金が必要になる。また学会発表についても交通費がかかるので、それらに大して重点的に使用する。 次年度に充てる研究費が生じた状況として、二つある。平成25年度に行う追加のアンケートについては、実は平成24年度には(23年度に引き続いてすぐに)第二回目のアンケートを行う予定であった。だが、まずは分析を通して、どの点を修正すべきかを検討する必要があった。分析結果は論文に著しているものの、質問項目の修正には時間がかかり、25年度に持ち越すことにした。必然的に、24年度に使用予定であった研究費を25年度に持ち越したいと考えている。 また、平成24年度中に平成25年度の学会発表の依頼がきた。その一つは、海外発表であり、現在、日程やテーマについて調整中であるが、実現するとなると、渡航費、滞在費などを保持しておきたいと考えた。 以上が、次年度の研究費の使用計画である。
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