本研究の目的は、日本におけるスローフード運動の展開を事例として、個人が社会運動にコミットする過程と、地域社会において市民活動がスローフードという記号を媒介にしながら結びつく過程について、社会ネットワークという視点から明らかにすることであった。期間中の研究は以下の2つのアプローチのなかで量的・質的調査によって行い、最終年度は研究成果をとりまとめた。 ①個人が運動にコミットする過程におけるネットワークの分析:スローフード協会会員を対象としたアンケート調査を実施し、運動への参入経路と参加形態、継続的な参加意欲をもたらす諸要因の分析を行った。その結果、会員間の連帯感、運動や食のあり方をめぐる考え方の一致が、満足感ややりがい、居場所感を高めることを通して継続的な参加に結びつくという運動参加におけるネットワークの役割が明らかになった。分析結果に基づいて行ったヒアリングからは、運動理念の理解や受容は参加を通して得られたネットワークの内部で事後的に強化されること、会員間でのスローフードという言葉の解釈の多様性が運動のゆるやかな展開を維持していることなどが明らかになった。 ②「スローフード」という記号を媒介とした市民活動のネットワーキングの分析:各地のスローフード協会を対象とした組織調査を行い、各協会の特性とともに他の市民活動や社会運動との連携の状況、つながりの強さ、連携に対する意識を明らかにした。この調査結果に基づくヒアリングから、運動を持続的に展開している複数の協会に共通した背景として、協会を立ち上げる以前からまちづくりや地域の食文化に関するネットワークやサークル的つながりがあったこと、相互の日常的実践の重なりからネットワークが生まれた過程が明らかになり、地域レベルでの動員構造の重要性が示唆された。また組織内のつながりを外部の活動に接続する・開くことが運動を活性化している事例も観察された。
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