研究課題/領域番号 |
23530637
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
樽本 英樹 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (50271705)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際移民 / 市民権 / 社会学 |
研究概要 |
「国際移民による国民国家への挑戦」論争の文脈で市民権制度の変容を問う本研究の初年度は、市民権制度の変容を指標化を念頭に置きつつ3つの側面から捉える試みを行った。 第1に、共著を発表しグローバル社会における共同性の変容を示した (米村・数土編『社会学を問う-規範・理論・実証の緊張関係』勁草書房)。 第2に、複数回の国際学会等で発表と研究討論を行い、"migration management" という移民政策の新たな理論的枠組みが市民権制度の変容を把握する上で有効であることを明らかにした (The Association of American Geographers (AAG) Annual Meeting; Joint Conference of the RCSL of International Sociological Association (ISA) and the Central University of Himachal Pradesh; 第84回日本社会学会大会) 最後に、複数回の国際学会等で発表と研究討論を行い、アジア諸国を対象とした比較研究を試み、市民権制度の変容を明確に把握するための考察を行った (Association for Asian Studies (AAS) Annual Conference: Nagoya University - University of California, Conference; The 2011 Seoul National University Asia Center (SNUAC) Conference: Nagoya University and International Federation of Social Science Organizations Symposium)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は市民権制度変容の指標化研究を直接検討することから当該研究を始めようとしていたけれども、急激な国際的研究の進展から鑑み、指標化のみを抽象的に考察することは懸命な戦略ではないことがわかった。しかしその代わりに、グローバル化における共同性、"migration management"、アジア諸国との比較といったより対象に即した形での理論化が望ましいと気がついた。グローバル化における共同性の観点からは、市民権のアイデンティティ側面の変容を考察できた。"migration management"の観点からは移民フローの側面から移民の市民権権利的拡充の可能性を示すことができた。そして、アジア諸国との比較からは単なる抽象的な指標化に陥らない理論化を考える基礎を得ることができた。その結果、当初の思惑とは別の方向ながらも、順調に当該研究を進展させることができたのである。
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今後の研究の推進方策 |
市民権変容の国際比較的考察を本格的に始めることにする。初年度の研究活動からわかったことは、他国の研究者、特に欧米の研究者たちがアジア諸国の把握を求めていることである。当該研究では当初の計画通り、アジア諸国を中心として考察を試みていく。ただし、指標化を中心とした理論化と国際比較との兼ね合いをどのようにとっていけばよいのかは今年度の課題として残されている。すなわち、国際比較に重心を移しすぎると、理論的側面が弱くなり比較が不完全となる。また、理論化に重きを置きすぎると、比較のための具体的な素材を消化できなくなる。このあたりのバランスをとるため、理論に関する発表と比較に関する発表を分けて国際学会などで行うなどの方策をとる。
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次年度の研究費の使用計画 |
申請時の計画どおり、今年度も研究の性格上、国際学会など研究会議での発表と研究討論を研究費使用の軸にしつつ、海外の研究機関における資料収集などにも使用していきたい。具体的には、6月にロンドンで行われるロンドン大学シンポジウム、8月にブエノスアイレスで行われるInternational Sociological Association Forum、11月に中国で行われるAsian Sociologists Networkを研究発表の中心としつつ、9月に英国ウォーリック大学において資料収集および研究討論を行うこととする。そして、消耗品など物品にも使用することになる。初年度は、たまたま2つの国際学会が2月と3月という航空運賃が比較的安い時期であったため、残額が発生した。しかし、大きい額ではなく今年度8月に行われる国際社会学会大会(アルゼンチン・ブエノスアイレス)への旅費の一部として使用する予定である。
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