研究課題/領域番号 |
23530637
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
樽本 英樹 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (50271705)
|
キーワード | 国際社会学 / 市民権 / ポストナショナル |
研究概要 |
市民権のポストナショナルな変容を分析するため、以下のような作業を行った。 第1に、理論的枠組みを構築し、実際に応用するという作業を行った。グローバル化の中、境界研究が社会科学において注目されてきた。しかし、領土的境界を対象に収めつつも、領土的境界を越える人の国際移動がつくりだす国民国家内部の社会的境界に注目できていない。そこで、第1に、ハマー=小井土=樽本モデル (HKTモデル) が国民国家内の社会的境界の諸タイプを認識可能にすることを示した。第2に、探究のためには理論仮説が必要であることを示した。例えば、アメリカ合衆国のサブプライム・ローンに起因した世界的不況と、非合法移民および一時的滞在者に着目すると、境界閉鎖仮説が国家による社会的境界の管理の多様性を探究するために有用である。このように境界研究という観点から市民権のポストナショナルな変容にアプローチしようとしたのである。 第2に、具体的な事例として英国に着目し市民権の変容を考察した。特に、変容の考察のポイントが宗教的主体の市民権の扱いであるとわかったため、英国の人種主義とイスラモフォビアに着目した。英国において反差別的な実質的市民権を確保する政策的枠組みは「人種関係」であった。すなわち差別など排外主義は人種集団間において生じるということが政策的な前提となっていた。この人種関係パラダイムは一定の効果をあげてきたものの、近年この枠組みを超える排外主義が登場してきた。イスラモフォビアである。この新たな排外主義は、宗教集団間の軋轢を前提とするため、人種関係パラダイムでは捉えきれないものである。果たして人種関係パラダイムはムスリムパラダイムへと変容するのだろうか。英国全体の統治前提からは、ゆるやかな変容にしかならないだろうという予想が立てられた。 以上のように当該年度においては、理論面と実証面の両者において実績が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の理由により、本研究は順調に進展しているといえる。 第1に、ハマー=小井土=樽本モデル (HKTモデル) を初めとする理論的考察を通して、市民権のポストナショナルな変容を捉えるための視角がほぼ獲得されたことである。市民権が国民とそれ以外の2種類の主体に即するものではなく、他のいく種類かに即したものへと変容しており、それぞれを国家政策が実現させていくということが示されることになった。 第2に、理論的研究を具体的事例に応用する試みが達成されたことである。特に、HKTモデルに即しながら、2000年代の世界的不況下における移民政策の理論的仮説を一部つくり、検証できたことは、他の事例への分析に大きな一歩を踏み出すことになる。 第3に、市民権のポストナショナルな変容のひとつの事例として、宗教的主体に対する排外主義を取り出すことができたことが挙げられる。英国の場合、このタイプの排外主義はイスラモフォビアという名で呼ばれることになった。ポストナショナルな変容は、このような新たな排外主義を解決することに市民権が向かうかどうか、向かうとすればどのような形で、なぜ向かうのかに関わることになる。この考察過程で、英国以外の事例への広がりが獲得された。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は最終年度に当たるため、本研究は全体をまとめていくため、いかのように推進していく計画である。 第1に、理論研究を「移民政策システム」という形でまとめる研究を行う。そして得られた研究結果を2013年9月にオックスフォード大学において行われる研究会議において発表し、その後さらに発展させる。 第2に、事例研究を発展させるためフランスを事例として含める。とりあえず得られた研究結果は、2013年9月にフランス・トゥールーズで行われる国際社会学会法社会学部会の研究会議において発表し、その後さらなる研究を行う。 第3に、理論研究および事例研究の両者とも、まずは別々に国際学術雑紙に投稿すべく論文に仕上げていく。 最後に、国際学術雑紙論文に見通しが付いた段階で、理論研究および事例研究の両者を統合する形で学術書をまとめていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし。
|