研究課題/領域番号 |
23530639
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
山下 祐介 首都大学東京, 都市教養学部, 准教授 (90253369)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 過疎・過密 / 社会移動 / コミュニティ / 東日本大震災 |
研究概要 |
過疎地や災害経験地域の歴史および現状を分析し、今後の地域コミュニティの持続可能性を探る本研究では、研究開始直前に発生した東日本大震災の現実を組み込みながら、試行錯誤の中、研究を進めてきた。第一に過疎地に関わる研究では、青森県西目屋村、黒石市の事例を調査するともに、世界自然遺産・白神山地周辺の観光化と、周辺過疎山村の生活現実との関連性・非関連性について検討した。これらの研究成果は、『白神学第2巻』(西目屋村・ブナの里白神公社、2011年11月、編著)、『限界集落の真実 過疎の村は消えるか?』(ちくま新書、2012年1月刊、単著)、『弘前大学人文学部社会調査実習報告書――過疎・限界集落問題研究 2010 年度調査報告――マチの過疎 北東北の過疎』(2012年3月刊、弘前大学人文学部、編著)に速報を掲載した。第二に災害研究では、東日本大震災の発生を受けて、過去の被災地について予定していた調査を岩手・宮城・福島に振り替えた。とくに岩手県野田村、福島県富岡町の調査研究を重点的に行い、津波被災地と原発事故被災地について、コミュニティとしての持続可能性について中長期的な検討ができるよう準備を整えた。成果は、『「原発避難」論 避難の実像からセカンドタウン、故郷再生まで』(明石書店、編著、2012年3月刊)の他、『社会学評論』(62巻4号、日本社会学会)、『都市社会研究』(No.4、せたがや自治政策研究所)、『季刊東北学』(第28号、柏書房)、『世界』(2012年1月号、岩波書店)、『季刊家計経済研究』(2012年冬、No.93、家計経済研究所)、『建築雑誌』(vol.127、No.1626)への執筆の他、第84回日本社会学会大会・研活テーマセッション、地域社会学会2011年度第2回研究例会、環境社会学会研究例会、社会学系コンソーシアム・シンポジウムなどの学会・講演会で報告・発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過疎地域と大規模災害発生地域を題材に、短期的危機・長期的危機の中でコミュニティの持続可能性の条件を探る本研究は、東日本大震災の発生を受けて、急遽、研究の重心を現在進行形の震災問題におくこととした。本年度はまず震災研究を中心に検討を進め、過疎地域研究は予定よりもやや遅らせて次年度で調整することとした。東日本大震災に関しては、調査研究の対象地を確立し、新たなラポールを気づくことを試みた。弘前大学および、首都大学東京の学生研究者に研究協力を依頼し、迅速な情報収集をはかることで、当初予定していた以上の成果を上げることができた。震災調査から回収されたデータはきわめて貴重であり、本研究の目的を達成するために十分な資料・検討材料をえたと考える。ただし、急速に事態は変わりつつあるので、次年度以降はこうした材料をもとに分析を試みるとともに、引き続き、震災関連の調査を進め、関連する事実の収集に努める予定である。とくに福島第一原発避難地については、セカンドタウン、賠償と生活再建、コミュニティ被害と地域再生の問題が、本研究と密接な関係を持っており、年度末にこれらについて話し合われた各種の研究会に研究代表者も多数招待され、また出席し、報告・意見交流を重ねてきた。その中でも、これらから次年度の研究への発展見通しをえている。過疎地に関しては、青森県西目屋村にて、世界自然遺産・白神山地をめぐる観光開発の動きと、周辺地域の過疎化の関係について、事実確認をおこなったが、調査は予定より遅れ、次年度以降に精力的に進めるつもりである。
|
今後の研究の推進方策 |
過疎地での本研究の今後の推進については、青森県の事例(西目屋村、鰺ヶ沢町、黒石市、平川市)の情報収集を継続するとともに、本来、本年度に予定していた他県での事例検討を精力的に行いたい。また省庁レベルでの施策の展開も進んでおり、人口減少社会への移行も確認されたことから、マクロレベルでの調査検討も加える予定である。 災害研究については、東日本大震災の復興過程が遅々として進んでいない現状を踏まえて、この事例検討を重点的に行い、現在進行形の事態の中で、コミュニティの持続可能性を検討していきたい。とくに今年度の研究でラポールを築いた、岩手県野田村および福島県富岡町の検討を進めたい。なかでも福島第一原発事故においては、コミュニティそのものが現地から消滅し、また一部が警戒区域解除で帰還が進められている。だが、その再生については非常に困難な道が予想され、この道を観察し、あるいは提言・検討を進めていくことは、この研究の課題であるコミュニティの持続可能性を検討するのに大変重要な事実を提供するものである。とくに、セカンドタウン(仮の町)の検討および、コミュニティ被害とコミュニティ賠償に関わる議論の中で、論点を深めることが可能と思われるが、研究代表者も、これらをテーマにした研究会に出席・報告し、様々な領域の研究者、実務家とともに情報交換を進めている。次年度もこうした会合に出席しながら、この震災・原発事故が、コミュニティの何を奪い、何を再建しようとしているのかを明らかにし、そこからコミュニティの持続可能性の課題を推進して行く予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、青森県、岩手県、宮城県、福島県で、過疎地および東日本大震災の被災地での調査研究を進めるとともに、和歌山県、新潟県、兵庫県、大分県の過疎地について、過疎研究を行う。基本的には視察程度の調査とするが、青森県、岩手県、福島県については、より深めた形を取る。青森県では、西目屋村、鰺ヶ沢町、弘前市の調査地をあつかい、過疎地の家族およびライフコースの研究を進める。また被災地に関してはとくに岩手県野田村、福島県富岡町について、被災地の復興過程と生活再建、地域再建への道のりを記述していくことを試みる。とくに福島第一原発事故からの避難地域については、各種研究会・学会等にも出席しながら情報収集に努め、本研究の研究課題であるコミュニティの持続可能性を確立する条件の抽出を達成するための重点的な案件として位置づける。代表者による直接の調査とともに、研究会の開催、情報提供者の招集、大学院生などの研究協力者の活用を試み、短期間での効率的な情報収集を進め、再来年度の研究取りまとめに向けて準備を行う年とする。
|