本研究は、フランスと日本における都市底辺層の社会運動が、新自由主義的な政策が引き起こした貧困に対応して生起したものであるならば、どのような特徴を持つのかを明らかにすることを目的とした。日本とフランスのホームレスを中心とし、移住労働者もふくむ都市底辺層の運動について社会調査を行い、活動家と運動に参加する都市底辺層の当事者に対するインタビューを行った。 結果としては、先行研究が指摘するように、新自由主義は経済的な意味での貧困のみならず、市場経済至上主義の観点からすると「無用」とみなされる個人の尊厳を否定し、個人が自己からの排除も経験するような形で現れる貧困であり、ヨーロッパでは1990年代から「社会的排除」と呼ばれてきた。 社会的排除に抗する運動は、反貧困運動であるがゆえに、公正な再分配を求める運動として展開する。その際に既存のシステムのなかで公正な再分配を求める運動として、まず現れる。それだけではなく、システムとは異なる論理に基づく活動もあらわれる。具体的には、既存の労働市場への統合ではなく、働く者を搾取しないような協同組合型の運動として現れる。この後者の運動はフランスよりも日本においてみられる。 理由としては、社会的排除が個人の尊厳を傷つける度合いが、日本のほうが強いがゆえと考えられる。そのため、日本ではまず、経済的な排除よりも、自己からの排除からの回復のほうが問題として迫り出しており、「居場所」としての社会運動の機能に焦点があたっている。それゆえに既存のシステムへの統合を求めるよりも、自己や他者への配慮が十分な労働が構想される特徴があった。
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