本研究の目的は、特に日本における人間と動物の関係の現状を(1)宗教の影響や民俗史などの歴史的視点、(2)社会の個人化傾向やペットブームなどの現代社会論的視点、(3)諸外国との比較という比較文化論的視点の3つの観点から考察することであった。(1)の歴史的視点、(2)の現代社会論的視点、(3)の比較文化論的視点のそれぞれに関して、内外の文献を広範に読み込むとともに、インターネットで関連文献や関連団体について調べたり、国内外の動物保護団体や関係者に直接インタビューするなどして、データの収集・蓄積に努めてきた。 具体的な成果としては、捕鯨問題に特化した形ではあるが、日本では食料資源の一部と見られがちな鯨が西洋で特別視される理由や過程について考察した『神聖なる海獣』を23年9月にナカニシヤ出版から単著として刊行した。また、研究仲間との共著として『捕鯨の文化人類学』(岸上伸啓編著)を24年3月に成山堂から出版した。同書の1つの章として執筆した「法の裁きを下すメディア時代の自警団?―シー・シェパードの反捕鯨キャンペーンの一考察」はその後、英語翻訳の形で、国立民族学博物館の英文雑誌『Senri Ethnological Studies』への寄稿にもつながった。 このほか、研究を進める中で出会ったLori Gruen著の『Ethics and Animals』(Cambridge University Press)(2011)を単独翻訳して、27年11月に『動物倫理入門』の表題で大月書店から出版した。同書は、肉食の倫理、動物実験の是非、ペット飼育をめぐる問題などを理論と実践の両面で詳述したものである。
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