研究課題/領域番号 |
23530651
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
水津 嘉克 東京学芸大学, 教育学部, 講師 (40313283)
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キーワード | ナラティヴ / セルフヘルプ・グル-プ / 支援 / 死別 / 物語 |
研究概要 |
今年度の成果として一つ目にあげられるのは、昨年までのインタビュー・フィールドワークによる調査データに加え、新たな調査データを加えるかたちで研究を進められたことである。「あしなが育英会」に関していうならば、自死遺児支援に係わったスタッフだけでなく、当時育英会の奨学生として実際に自らが「当事者」であり同時に「つどい」などの場で支援者でもあった対象者へのインタビューを積み重ねることができたのは大きな成果であった。 具体的には、東京学芸大学紀要に「自死遺児による語りにおける物語り変容の可能性 II ―その困難性に着目して」『東京学芸大学紀要 人文社会科学系II』(64): 125-133.を発表し、2012年11月の日本社会学会では(札幌学院大学 社会病理・逸脱(1)「自死遺児による語りの「変容」可能性と不可能性」として発表を行うことが出来た。学会発表においては、昨年度とは異なりいくつかの意義深い質問を頂き今後も研究を継続していくための理論的な課題の多さを認識させられた。 昨年から課題としている「現場への還元性」であるが、未だ十分には達成できないままである。2013年秋には学会発表の原稿をもとに研究仲間と共著本を出す予定になっているので、それを対象者に読んで頂き現場と研究者の連携を少しでも前進させたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、一年目・二年目と少しずつではあるが進展している。 その理由として、昨年に引き続き複数回のインタビュー調査を試みることができ、ここ二年間のデ-タの積み重ねをもとに社会学的な分析を進められた事があげられる。その成果は、学芸大学紀要論文・2012年度学会発表として公表することが出来た。 セルフヘルプ・グル-プ内でのダイナミクスを「ナラティヴ・アプローチ」を用いて明らかにしていくことが本研究の大きな目標のひとつであったが、「語ること」のみではなくその場に必然的に必要になる「聴く」という行為にに着目して、分析を進めることができたのは特に大きな成果であったと考える。これは、前年度に目標に掲げた「語り得ないこと」対する社会学的な分析を一歩進めることになっている。
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今後の研究の推進方策 |
セルフヘルプ・グル-プ的・ピア・サポート的実践に含まれていると誰もが自覚しているはずであるが、これまで理論的に論じられることがなかった「聴くこと」・「語り得ないこと」に対するアプローチをもっと深めていきたい。 同時にこのような「語り得ぬこと」の共有が、「語られたこと」のようにテキストとして残るものではないにもかかわらず、セルフヘルプ・グル-プ/ピア・サポートの「当事者」にとって大きなものとなっているであろう経験が、「あしなが育英会」を卒業した人々にとってどのような意味をもっているのかを探っていきたい。その為には、さらにインタビュー対象者の範囲を増やして調査を試みていく必要がある。 セルフヘルプ・グル-プ/ピア・サポートの場を離れたときに、「語ること」「語り得ぬこと」がどのような作用を「当事者」にもたらすのかを社会学的に議論・分析する可能性を探っていくことが、最終年度に向けての最大の課題になると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続きインタビュー調査を行っていくため、そのテープ起こしなどを外注する際の費用が発生する(予定としては6万円程度)。また、全国に散らばっている「あしなが育英会」卒業者を追いかけての出張・調査の実施、学会などでの発表を行っていくための出張費・旅費も必要になると予想される(予定としては8万円程度)。 また調査対象者との何らかのかたちでシンポジウムのようなものを設定したいと考えておりその為に本研究費の一部をあてたいと考えている。 それ以外に、記録・分析のための物品が必要となる。
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