本研究課題の最大の目的は、1990年代以降さまざまな形で理論的な蓄積がされてきた物語論あるいはナラティブアプローチが、セルフヘルプ・グル-プやピア・サポートの現場でどのようなかたちで適応可能なのかを、データとつき合わせながら実証的に明らかにすることにあった。その為にはまずインタビュー調査などによるデータの収集が必要になるわけだが、研究期間内に複数回にわたる自死遺児当事者・「あしなが育英会」関係者へのインタビュー調査を行い、一定のデータの蓄積を計ることができた。 また研究目的のひとつである、A. フランクらによって論じられてきた「回復の物語」あるいはJ. ラパポートによる「共同体の物語」という概念が、実際のセルフヘルプ・グル-プの現場、本研究課題でいうならば「あしなが育英会」の自分史語りの現場でどのように機能しているのか(いないのか)に関しても上記のデータを元に論考を試み、その成果を2011年/2012/2013年の日本社会学会大会における学会発表、そして2013年の分担執筆論考のかたちでまとめることができた。そこでは「共同体の物語」と「自己物語」の間にある微妙な緊張関係に関して、そして必ずしもそれが言語化されるかたちで現われるわけではないことに関して論考を試み、社会学的な議論を前進させることができたと考えている。 その一方で当初研究目的としてあげていた、セルフヘルプ・グル-プにおける「持ちのいい(自己)物語」に関して、あるいは「回復の物語」と対の概念となるのではと仮説を立てていた「困難な物語」に関しては、研究期間内に十分な論考を試みることができなかった。しかし、インタビュー調査を行なう中でこれらの問題関心を当事者の方々に説明する機会は複数回あり、調査対象者にも関心をもってもらうことができた。このことは今後の調査・研究を継続していくうえで大きな収穫であったと考えている。
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