研究課題/領域番号 |
23530652
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
清水 洋行 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (50282786)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | NPO / サード・セクター / 地域社会 / NHS改革 / イギリス |
研究概要 |
本年度は、研究会6回、英国ロンドンでの現地調査(約1週間1回)および研究成果の発表を行った。これらは連携研究者である中西典子氏(立命館大学産業社会学部准教授)・中島智人氏(産業能率大学経営学部准教授)と実施したものである。研究の焦点は、英国における2010年の政権交代に伴う、サードセクターに関わる諸政策の転換と、政策転換に対するサードセクターの対応の把握である。また英国での現地調査について、従来から対象としてきたロンドンのインナー地域にあるタワーハムレッツ区とともに、地域間の多様性を捉えるためにロンドン郊外のヘイヴァリング区を対象に加えた。 本年度の研究から分かったことは以下の通りある。(1)「大きな社会(Big Society)」政策の展開とともに政府とサードセクターとの関係の土台となってきたコンパクト(協定)が刷新され、「共有」よりも「成果(outcome)」が強調されるようになった。(2)サードセクターにとってコンパクトは、各地域における自治体や医療機関(PCT)からの不当な予算削減が生じた場合に異議申し立ての拠り所となる可能性がある。(3)地域戦略パートナーシップ(LSP)の縮小・変容と、それに代わるパーソナライゼーションに基づく(NHS改革の一環である)サービスの評価システムの強化によって、地域社会においてサードセクター組織の意思決定過程への参加主体としての役割が大幅に縮小した。(4)(3)の展開に伴い、地域で中間支援機能を果たしていた中規模のサードセクター組織や中間支援組織が政策的な位置づけを失い、サードセクターの分極化が一層促進されつつある。(5)全国組織を有するサードセクター組織においては、社会的影響評価等の手法を活用して自らのサービスの成果(outcome)を明確に提示するなどして存続可能性を確保する動きと、成果主導の趨勢とは距離をおく動きがある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、英国での「大きな社会」政策および国民保健サービス(NHS)改革のもとで福祉サービスの提供に関わるサードセクター組織の動向を把握するために、ボランタリーセクターの全国組織、タワーハムレッツ区とヘイヴァリング区の区職員および中間支援組織ほかで聞き取り調査と資料収集を行った。その結果、当該領域におけるサードセクター組織の動向およびその政策的背景の把握とともに、次年度に焦点をあてるべきサードセクター組織に関する情報収集を行うことができた。これは概ね計画通りの成果であるとともに、サードセクター組織に影響を与えている政策動向の把握に関してはむしろ次年度の計画を先取りしたものとなった。 他方で国内の現地調査については、調査対象団体の抽出まで行う予定であったが、年度内に達成することができなかった。これは、年度当初において研究費が全額支給されるかどうか不明瞭であったことへの対応と、連携研究者1名に病気療養の期間が生じたことなどの理由による。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は英国で実施している調査を完了させるとともに、国内での現地調査を実施する。まず本年度の調査研究の成果をふまえつつ、日英における地域間の比較考察が可能となるよう理論的枠組み及び分析視点を再検討する。 その上で英国における調査では、「大きな社会」政策のもとで公共サービスの「成果」(outcome)の重視が各地のサードセクター組織に与える影響に焦点をあて、サードセクター組織間においてその影響の受け方の違いを生み出す条件を考察する。そのためにタワーハムレッツ区とヘイヴァリング区において高齢者福祉サービスを提供するサードセクター組織を調査の核とし、それらと地域内の諸機関・団体(自治体、医療保健機関、区レベルの中間支援組織、他のサードセクター組織ほか)および地域外的な(広域的な)諸機関・団体(当該サードセクター組織の全国団体、全国レベルの中間支援組織、企業ほか)との多面的な関係を考察する。 国内の調査では、サードセクターにおける全国規模の中間支援組織のイニシアティブによって各地域で実施されている介護・福祉NPOの組織化支援やネットワーク支援ほかの取り組みに着目し、地域的なネットワークにおける介護・福祉NPOと自治体、医療保健機関、中間支援組織、他のサードセクター組織ほかとの多面的な関係を考察する。同時に、英国における「成果」(outcome)重視に対応しうる、国内のサードセクターのあり方を規定している規範を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、年度当初において研究費が全額支給されるかどうか不明瞭であったことへの対応と、連携研究者1名に病気療養の期間が生じたことなどにより、約35万円が未支出となった。他方で次年度から研究代表者の所属機関が変更となり、パソコンやプリンターなど本研究の実施に必要となる機器を新規購入する必要があるため、これらの物品の購入に本年度における未支出額の相当分をあてる。 その他の次年度の研究費の使用に関しては、当初の計画から大きな変更はなく、図書資料の購入費、研究会への出張旅費、英国での現地調査のための海外調査旅費、国内の現地調査のための国内調査旅費(以上の旅費には連携研究者分を含む)、聞き取り調査の書き起こし費用、資料整理の作業補助費ほかにあてる。
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