研究課題/領域番号 |
23530656
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
杉原 名穂子 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (00251687)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ジェンダー / ソーシャル・キャピタル / ケイパビリティ |
研究概要 |
ソーシャル・キャピタル(以下SC)概念をジェンダー論の視点から再検討するため、先行研究・調査から仮説を構築して調査票を作成、新潟市において調査を実施した(実施中)。 まず、調査のテーマと仮説を確定した。SCの創出・受益過程に男女の差がいかにみられるか明かにすること、その際、ジェンダーの権力作用について検討すること、この二つの問題関心にしたがって、追求すべきテーマは以下とする。 [テーマ1]SC創出活動は男女においてどのように異なるか [テーマ2]女性はSCによりいかなる利益をえているか [テーマ3] SCは自由や寛容性への志向を高めるか 次に、調査票作成のため、SCとジェンダーに関する先行研究を調べ、以下の検討事項を確認した。(1)SCの量だけでなく質についての検討の必要性 (2)フォーマル/インフォーマルという区分だけでなく、第三項としてケア領域をいれる (3)家庭の内外の活動を独立に見るのではなく両者の関連を分析する この検討事項をふまえた上で、仮説を構築し、調査票を作成した。SCとしては、ネットワーク、信頼、互酬性の規範というパットナム型の考えを採用し、その上に、家事労働や家庭内での共同の活動の項目、またPTAや学校、福祉に関する質問項目加えた。利益については、公共財としてのSCへの注目は、女性の抑圧を明らかにしえないと考え、個人ベースの財を検討。調査対象者が幅広く多様であることから、被説明変数として、センやヌスバウムのケイパビリティ・アプローチを採用し、自尊心、健康、愛情、連帯、環境のコントロールといった質問項目をとりいれた。 新潟市8区のうち6区(北区、中央区、秋葉区、南区、西区、西蒲区)において、住民基本台帳を用いてサンプリングを行い、調査票を郵送した。対象者は20歳~89歳(2012年1月1日現在)。配布数は2290票である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究の検討、調査票の作成は当初の計画通りすすんだ。計画の段階と比較すると、パットナムの自由・寛容性の増大とSCの関連についての議論、またセンやヌスバウムのケイパビリティ論が新たな分析事項として加わった。先行調査を参考にしながら、仮説をたてたのち変数化作業を行い、調査票の作成はページ数で6頁に抑えることができた。 次に、住民基本台帳からのサンプリングに関して新潟市各区役所と交渉し、8区のうち6区において実施ができた。残りの2区(東区、江南区)との交渉については3月までに終了しなかったので、この部分は当初計画より遅れている。研究計画通り、3000票を目標にサンプリング計画を遂行したので、本年度は2290票を抽出した。 サンプリングが終了した6区において、郵送による調査票の配布を完了。回収は順調にすすんでおり、回収率は目下、40%を越えて1000票近くに達している。計画の段階では20%を見込んでいたので、倍以上の回収数は予想をはるかに越え、計画で予定していた600票はすでに確保しおえた。また、配布数も郵送で届かなかった調査票は10票にとどまり、予想より多く配布することができた。このように調査票の配布と回収は順調にすすんでいる。また、次年度から実施予定の聞き取り調査であるが、調査票を返送してきたサンプルの中から協力者をつのる予定であった。計画の段階では、15名程度を見込んでいたが、現在、14名が協力に応じてくれており、またさらに12名と交渉を行う状況である。インフォーマントの確保についても順調にすすんでいる。
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今後の研究の推進方策 |
残りの2区の区役所と交渉し、住民基本台帳閲覧可能となる5月中旬にサンプリングを実施し、下旬に800票程度の調査票を郵送する。6月中に最終有効票を確定する。 回収した調査票にエディティング・コーディング・データ入力(外部委託)・データクリーニング等の作業を行い、集計作業にはいる。8月までに単純集計をまとめ、全国調査と比較しながら中間報告書をつくり、インフォーマントにフィードバックする。 その後、分析を行い、仮説の検証をすすめる。仮説(1)は女性はSCから利益を得ているが、SCが何の資源に変換されるかはジェンダーによってトラック化されており、ケア型・インフォーマルなSCはインフォーマルな関係で利益をもたらしているというもの。仮説(2)はSCは自由や寛容性を高めるかどうかは、SCのタイプにより違いがあるというもの。これらを統計的な分析を用いて検証する。仮説以外にも、どのような属性がSCと関係するかを明かにする。ボンディング型、ブリッジ型のSC概念とジェンダー問題については課題事項であり、さらに検討が必要である。 調査票の配布と回収、集計作業と並行して、SC研究についてさらに文献を調査し、集計結果とあわせて、聞き取り調査の質問項目について検討する。聞き取りでは具体的な活動や人間関係の構築、その変化についてたずねていく予定である。8月以降、インフォーマントと交渉し、順に聞き取り調査を実施する。調査したデータはテープおこしし(外部委託)、まとめていく。グラウンデッド・セオリーによる分析を考えているが、聞き取り調査を行いながら適切な分析手法を検討していく。これらの分析をまとめ、SC概念の課題について考察し、報告書を作成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
3月に実施した2290票の調査票郵送費、調査票回収費、督促状費および発送作業・サンプリング作業の謝金については、今年度、計上されなかった。さらに、8区のうちの2区でのサンプリングと調査票の発送作業は今年度実施されなかったので、それにともなう費用が次年度にまわることになる。調査票を6頁に抑えることができたため、調査票印刷費も当初の予定より低い支出となった。以上あわせた経費が最終的に次年度使用額として発生することになった。 次年度は、残りの2区での調査実施のため、住民基本台帳閲覧代、物品費、調査票郵送費、回収費、謝金を経費として使用する。また、データ入力の費用、聞き取り調査のための物品やテープおこしの費用が必要である。回収された調査票数が当初計画の倍の数に増えているため、入力の費用が超過することが考えられる。他方で、質問項目は予定より抑えられたので、最終的にどの程度かかるかは有効票数が確定するまで見込めない。見積もりで予定を大幅に越す額になった場合は、一部、本人による手作業入力で対応することも計画している。 それ以外では、仮説の検証や考察に関わるための書籍の経費、集計結果をインファーマントにフィードバックするための郵送費を使用する計画である。
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