研究課題/領域番号 |
23530656
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
杉原 名穂子 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (00251687)
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キーワード | 社会関係資本 / ジェンダー / 信頼 |
研究概要 |
「地域生活と住民意識に関するアンケート調査」について、前年度から引き続き、残りの新潟市東区、江南区について調査を行った。両区役所において住民基本台帳を用いてサンプリングを行い、それぞれ519票、261票を抽出、その後郵送調査を実施した。前年度の6区とあわせて新潟市全8区の調査が終了し、配布数3070、有効回収数1314、有効回収率42.8%であった。調査票回収の後、サンプリング名簿を破棄、単純集計報告を作成し、集計表郵送を希望するインフォーマントに報告書を郵送した。 基本的なクロス集計を出した後、分析にとりかかり現在継続中である。まず、ソーシャル・キャピタルの認知的・構造的二つの資本のうち、認知的資本の信頼に検討している。信頼に関する日本および海外の先行研究について文献級を行い、その理論的系譜、二つの信頼類型、信頼醸成に関する仮説についての整理を行い、その一部を著作として執筆した。 次に、二つの信頼類型のうち、まず一般的信頼感についての社会的要因との関連を分析し、先行研究の知見との比較・検討を行った。調査結果の分析では、一般的信頼感についてジェンダー差はみられないという結果が出た。これは特定化信頼と異なり、一般的信頼感は特定の経験ではなく、本人の世界観や教育の影響によるという先行研究の知見と一部重なるものである。信頼感と強い関連がみられるのは、楽観主義や寛容性、自己肯定感といった価値観であり、逆に実際の具体的活動との関係はみられないが、これも上記の節から説明できる。ただし、教育との関係については調査結果からは明確にみとめられず、この問題について従来の学説と異なることから、さらに検討が必要である。なお、世界価値観調査での一般的信頼感についての国際比較データもあわせて考察して、信頼とジェンダー要因の関係を検討したが、やはり性別による格差はまったくみられなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り量的な調査票調査を実施し、先行研究について検討を加えつつ、分析をすすめているところである。当初の課題のひとつに、「ネットワーク、信頼、規範等、ソーシャル・キャピタルの構成要素について、コミュニティと家族・ジェンダーはどのような関係にあるのか。特に、家族内でのケア活動との関係はいかなるものか。」というものがあるが、まず、ジェンダー要因との関係について検討を加えている。 男女の違いに注目して分析したところ、認知的ソーシャル・キャピタルである「信頼」について、一般的信頼感についてはジェンダー要因はほとんど関係なかったが、特定化された信頼感や具体的な活動や社会関心についてはジェンダーによる格差がみられた。社会の具体的なジェンダー構造が構造的ソーシャル・キャピタルに関連し、他方で認知的ソーシャル・キャピタルについてはジェンダー要因はあまり作用しないという仮説が新たにたてられるが、それについて今後さらに検討を加えていくことにする。事前の課題になかった知見としては、既婚未婚という要素が男性の認知的ソーシャル・キャピタルに関係していることがあり、女性にとっての問題だけでなく男性の抱える問題についても検討が必要となるであろう。 次年度以降、インタビュー調査を実施するために、インフォーマントの確保も行った。自発的に協力の意向を伝えていただいた34名程度の連絡先を確保し、挨拶状を送付した。
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今後の研究の推進方策 |
調査開始前はボンディング型、ブリッジング型のソーシャル・キャピタルという分類に関心がおかれていた。女性はボンディング型の資本を豊富にもち、そこが男性との違いとして問題もあると予想されるので、その点について検証を行いたい。また事前に予想してなかった認知的・構造的という二つのソーシャル・キャピタル類型については、ジェンダーの視点で分析したところ、関わり方が異なる可能性がこれまれの分析で示唆されたので、その点を実証データをさらに検討しつつ、理論的に整理し論文としてまとめていく。先行研究や調査の検討を引き続き行いながら、また、世界価値観調査についての分析も新たに加えた上で、一般的信頼感についての分析をまず完了させ、その後、構造的ソーシャル・キャピタルの分析に取り組む。ジェンダーによる格差を整理した後、家族活動との関係がソーシャル・キャピタルにどのように関係するかという課題についても、その検討の中で取り組む予定である。 最後の問題点については、インタビュー調査を夏に実施することでさらに追究を深めていく。インフォーマントに連絡をとり、地域での具体的な活動や女性の移動、家族要因がどのようにソーシャル・キャピタルに関連するかを検討する。具体的な質問項目について、量的調査の分析をすすめる中で、先行調査の知見もふまえながら、夏までに作成する。調査実施後はすみやかにテープおこしをおこない、結果をまとめ、量的調査とあわせて課題についての検討を行い、ジェンダー的観点からソーシャル・キャピタルの現代的問題について論文として成果をまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度は、インタビュー調査のための経費に多くを充当する。調査のためのICレコーダーについては今年度すでにある程度の数を確保しているので、テープおこしに予算をあてる。テープおこしについては外部の業者に委託する。関連する文献や複写費、また資料を整理するためのファイル等の文具にも予算を計上する。
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