本研究は、フランスのブルターニュとアルザス、スペインのカタルーニャという三つの「歴史的地域」を例に、領域的マイノリティと移住者との関係がエスニック化(racialized/ethnicized)される社会学的条件について、一連の少数文化地域における移民研究に依拠して考えようとするものである。 (1)今年度はアルザス、ブルターニュ、カタルーニャの三地域の都市部で活動する、比較的規模の大きな反レイシズム団体に焦点を絞った調査を行った。独立運動が盛り上がり移民や外国人への影響が注目されるカタルーニャでの調査に比較的大きな時間を割くと共に、民間の世論調査・政府機関や反レイシズム団体が行ったレイシズム動向に関する調査結果の分析も進めた。 (2)調査の結果分かった三地域に共通の特徴として:①EU政策を受けて国レベルでの反差別・反レイシズム機関の役割が高まっていること、しかし同時に反レイシズム団体からは「制度的レイシズム」が依然として非難の対象となり(国或いは自治体レベル)、特に一定集団に向けた差別的処遇が問題化していること(フランスでは特にロマ、スペインでは特にアフリカ系の非正規滞在者);②「社会的レイシズム」が各地域で浸透し、以前は大きな侮蔑的響きを持った「レイシスト」という非難が力を失いつつあること、レイシズムに対する社会的許容が生まれていることは極右政党の進展(アルザスとブルターニュ)や保守政党による移民攻撃の言説のラジカル化(カタルーニャ)に如実に表れること、が指摘できる。 (3)逆に三地域の差異が際立ったのは①移民排斥の言説と地域主義言説との関わり、②反レイシズム運動や地域主義運動への移民出自者の動員の有無、③フランス/スペイン・ナショナリズムと地域主義言説との関係変容である。個人レベルでのレイシズム・差別経験と、地域レベルでのレイシズムの変容を扱った2本の論文を執筆中である。
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