研究課題/領域番号 |
23530662
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
足立 重和 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (80293736)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 観光 / 社会関係資本 / 郡上八幡 / 頼母子講 / 偽装としての遊び / 相互扶助 |
研究概要 |
平成23年度は、本科研の大きな研究テーマである、伝統文化を活用した観光現象と社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)との関係のなかでも特に、社会関係資本としての頼母子講に着目し、その実態の解明に研究を集中した。具体的には岐阜県郡上市八幡町を事例にしながら、この地域の貴重な観光資源である「郡上おどり」とは異なった、地元住民の"たのしみ"を前面に打ち出した「昔おどり」の地元有志たちが中心となった頼母子講のフィールドワークを行った。 郡上八幡では、現在でも地元住民のあいだで盛んに頼母子講が行われている。本来、頼母子講とは信頼できる仲間内でお金を出し合い、そのなかの特定の個人に貸し付けるという民間共済組織であったのだが、現在の郡上八幡では仲間で集まって親睦を深める会へと変貌を遂げてきた。しかしながら、親睦目的に変化しても、講員どうしでの少額のお金の貸し借りは続けられる。その貸し借りの際、講員たちは、常に酒を酌み交わしながら、集まったお金をめぐって冗談か本気かわからない言い方でセリを行い(例えば、本来伏せられるべき入札金額を自ら大声で言い放つ、など)、仲間と戯れる。このような真偽を宙づりにする遊びこそ、お金の貸し借りにともなう「助ける-助けられる」という関係性を曖昧にしながら、仲間内での相互扶助を円滑に進めている。 このような「偽装としての遊び」という仕掛けをもった頼母子講がベースとなって、地元住民の"たのしみ"を重視した伝統文化の継承や観光化を可能になっているとすれば、本研究が目指している、観光現象と伝統文化の"適度な"関係、あるいは、地元住民の生活全体を優先させた観光開発モデルを示すことにつながっていくのではないか、と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、学術的には構築主義的な観光文化論を乗り越えるとともに、実践的にはマス・ツーリズムに流されない、地域社会独自の観光戦略のあり方や方向性を指し示すために、伝統文化を活用した観光現象と社会関係資本がどのような関係にあるのか、を明らかにすることであった。この目的から平成23年度の研究実績をふりかえると、郡上八幡における社会関係資本となる頼母子講の実態解明については大きく前進し、一本の論文にまで結実するに至った。この論文では、頼母子講のもつ相互扶助的な性質が、月例会におけるセリ場面での「真偽を宙づりにする遊び」で偽装されており、このような遊びが仲間内だけでなく、町全体にかかわる観光イベントひいては地域づくり運動に及ぶことを指摘した。この点で、民間の社会関係資本の解明から観光現象へ向かう足がかりを得ていると考えられる。 しかし、社会関係資本である頼母子講の実態解明は進み、それが現在の郡上八幡での「昔おどり」にゆるやかにつながっていると考えられるものの、頼母子講と観光現象との関係がやや弱く、頼母子講が観光現象とどのように結びついているか、という点が未だに残された課題である。また、社会関係資本や、観光現象と社会関係資本の関係への理論的パースペクティブの確立が進んでおらず、先にあげた頼母子講にかんする論文も、実態解明に傾いている。この点で、今後の研究を展開するうえで、理論的パースペクティブの確立がもう一つの課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
既に述べたように、(1)郡上八幡での有力な社会関係資本である頼母子講と住民主体の観光現象との関係の究明や、(2)そのような対象への理論的アプローチの確立、という2つの課題をふまえつつ、平成24年度は、以下のような研究推進方策を考えている。 まず1つめは、(1)の課題に対応するために、これまでどおり郡上八幡にて頼母子講と観光との関係をフィールドワークにて明らかにしていくことと、各地の代表的な踊りや民俗芸能(具体的には、秋田県羽後町の「西馬音内盆踊り」と富山県八尾の「風の盆」)と「郡上おどり」を比較研究していくことがあげられよう。 次に2つめは、(2)の課題に対応するために、社会学(観光社会学、環境社会学、地域社会学)・人類学(観光人類学、都市人類学)・民俗学(都市民俗学)分野での理論研究の重点化をはかるとともに、その分野で優れた業績をあげている研究者からのアドバイスを積極的に取り入れることがあげられる。 最後3つめは、平成23年度に一定の成果をあげた、頼母子講内部の論理から地域づくりへと向かう研究の方向性をさらに発展するために、郡上八幡における頼母子講の参与観察を引き続き推し進めていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
国内旅費については、郡上八幡での現地調査のため、所属機関(次年度から追手門学院大学)から郡上八幡までの旅費を1回(2泊3日)で40千円(交通費・宿泊費)と算出し、約6回分=240千円を計上した。各地での比較調査では、秋田県羽後町での調査に90千円、富山県八尾町での調査に50千円(各2泊3日)を計上した。さらに、観光や社会関係資本にかんする理論研究のために、文献収集をかねて第一線で活躍する研究者との研究打ち合わせ旅費に70千円を計上した。 また、設備備品費については、観光や社会関係資本にかんする理論的パースペクティブを検討するために、観光・環境・地域社会学をはじめ、それらに関連する民俗学などの他分野の研究書の購入費を1冊10千円と算出し、次年度は30冊(300千円)できるようにした。そのほか、フィールドワークに必要な消耗品は、50千円を計上した。次年度の謝金については、研究補助として図書・資料整理に30時間分(1人×2月=30千円)と、専門知識の提供として専門家に対し8時間分(1人×1月=40千円)を計上した。その他の項目としては、印刷費(文献複写を含む)を30千円とした。
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