研究課題/領域番号 |
23530662
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研究機関 | 追手門学院大学 |
研究代表者 |
足立 重和 追手門学院大学, 社会学部, 教授 (80293736)
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キーワード | 観光 / 社会関係資本 / 郡上八幡 / 頼母子講 |
研究概要 |
平成24年度は、昨年度の社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)としての頼母子講の実態の解明をふまえ、伝統文化を活用した観光現象と頼母子講との関係の研究に着手した。具体的には岐阜県郡上市八幡町を事例にしながら、郡上八幡に無数に存在する頼母子講のなかでも観光やまちづくりに貢献したものを取り上げ、頼母子講が郡上八幡の観光にどのような役割を果たしているのか、という側面をフィールドワークした。 昨年度も述べたように、現在の郡上八幡での頼母子講は、気の合う仲間で集まって親睦を深める会へと変貌を遂げていた。だがその一方で、あくまでも親睦目的にしながらも、講員どうしでの少額のお金の貸し借りは続けられている。その際、講員たちは、お金の貸し借りを「遊び」でコーティングしながら、「助ける-助けられる」という関係性を曖昧にしていた。 このような「偽装としての遊び」という仕掛けをもった頼母子講は、その「遊び」の精神が発揮されることによって、観光の目玉となる伝統文化のイベント(たとえば、昔の盆踊り、芸者を呼び込んでの郡上おどりパレード、郡上おどりでの水中花火大会など)の着想が可能になると同時に、月々の掛け金の一部をイベントの資金に充てるという実行力をともなっている。そうやってなされたイベントは、講員たちのボランティア的行動が「遊び」によってコーティングされているため、「町の観光のために……」といった大義名分を感じさせないように工夫されている。 このことは、本研究が目指している、観光現象と伝統文化の“適度な”関係、あるいは、地元住民の生活全体を優先させた観光開発モデルの形成につながっていくのではないか、と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、学術的には構築主義的な観光文化論を乗り越えるとともに、実践的にはマス・ツーリズムに流されない、地域社会独自の観光戦略のあり方や方向性を指し示すために、伝統文化を活用した観光現象と社会関係資本がどのような関係にあるのか、を明らかにすることであった。この目的から平成24年度の研究実績をふりかえると、社会関係資本である頼母子講の実態解明は進み、それが観光現象とどのように結びついているか、が一定程度明らかになった。それは、上述したように、講員たちが自分たちを含めた地元住民の「遊び」や「楽しみ」を重視した観光イベントの着想を可能するとともに、それを実行するために資金を自分たちで積み立てて準備できる、ということであった。この点において、本研究は、おおむね順調に進展していると評価することができよう。 しかし、中心的事例地である郡上八幡での研究は進んでいるのだが、当初計画していた他地域との比較はどうなっているのか、という点が未だに残された課題である。また、昨年度も指摘したことだが、観光現象と社会関係資本の関係への理論的パースペクティブの確立が進んでおらず、今後の研究を展開するうえで、理論的パースペクティブの確立がもう一つの課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
既に述べたように、社会関係資本と住民主体の観光現象との関係の究明ために、(1)郡上八幡だけでなく他地域との比較研究や、(2)そのような対象への理論的アプローチの確立、という2つの課題をふまえつつ、平成25年度は、以下のような研究推進方策を考えている。 まず1つめは、(1)の課題に対応するために、郡上八幡における頼母子講と観光との関係と、各地の代表的な踊りや民俗芸能(具体的には、秋田県羽後町の「西馬音内盆踊り」、富山県八尾の「風の盆」、重県長浜市の「曳山祭り」、徳島県徳島市の「阿波踊り」)と「郡上おどり」を比較研究していくことがあげられよう。 次に2つめは、(2)の課題に対応するために、社会学(観光社会学、環境社会学、地域社会学)・人類学(観光人類学、都市人類学)・民俗学(都市民俗学)分野での理論研究の進展をはかるとともに、各分野で優れた業績をあげている研究者からのアドバイスを積極的に取り入れることがあげられる。 最後3つめは、平成23~24年度に一定の成果をあげた、頼母子講内部の論理から地域づくりへと向かう研究の方向性をさらに発展するために、郡上八幡における頼母子講ならびに伝統文化の観光化現象の参与観察を引き続き推し進めていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
国内旅費については、郡上八幡での現地調査のため、郡上八幡までの旅費・宿泊費その他を計上した。各地での比較調査では、秋田県羽後町での調査、富山県八尾町での調査、滋賀県長浜市での調査、徳島県徳島市での調査などにかかる旅費・宿泊費その他を計上した。さらに、観光や社会関係資本に関する理論研究のために、文献収集をかねて第一線で活躍する研究者との研究打ち合わせ旅費の使用を計画した。 また、設備備品費については、観光や社会関係資本に関する理論的パースペクティブを検討するために、観光・環境・地域社会学をはじめ、それらに関連する民俗学などの他分野の研究書(約30冊)の購入を計画している。そのほか、フィールドワークに必要な消耗品(アルカリ電池、DVD、USBなど)を計上した。次年度の謝金については、研究補助として図書・資料整理に30時間分と、専門知識の提供として専門家に対し8時間分を計上した。その他の項目としては、印刷費(文献複写を含む)の使用を計画している。
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