研究課題/領域番号 |
23530665
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
寺岡 伸悟 奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (90261239)
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研究分担者 |
櫻井 清一 千葉大学, 園芸学研究科, 教授 (60334174)
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キーワード | 農商工連携 / 六次産業化 / 第一次産業 / 地域資源 / 地域文化 |
研究概要 |
1、農商工連携認定事例の申請関与者の分析:平成23年度作成したデータベースを基礎資料として、その関与者の構成を明らかにした。<農工連携タイプ>が全体の3分の2以上を占める。<農商工連携タイプ>は非常に少ない。また各連携において<農>が原料供給の立場に限定されている事例が多い。申請代表業種は<工>が多く<農>は1割程度である。 2、奈良県内等の事例研究により地域の自治体公設の研究機関の関与の重要性が明らかになった:地域の主要品種の規格外品の利活用の動きの際、その地域で伝統的に用いられていた技術や文化(奈良県の場合、干し柿、柿渋利用、柿の葉の寿司への利用、またヘタの利用)が、農商工のセクターを横断して地域の共通理解の枠組みとして参照され、それらが農商工連携の事業となる事例が少なくないこと。それを可能とするために、たんなる復古ではなく、県の果樹振興センターや工業技術センターの新しい技術(奈良県の場合には、柿渋の抽出技術の革新、赤い柿の葉の保存技術の特許など)がそうした連携の契機となっていること。国の農商工連携事業で触発されたものが、県などの農商工連携事業申請など、関与者によるさらなる事業申請を誘発していることなどが明らかになった。 3、国際学会等での発表:農商工連携という、政府等による異業種連携という特色ある実践を、ポルトガルで行われた国際学会において1回、台湾で行政主催で行われた六次産業化に関する研究会において2回、合計3回、海外で発表や報告と討論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・農商工連携の基本的特徴の把握と国際学会での発表:リスボン(ポルトガル)で2012年8月に、世界農村社会学会議(International Rural Sociologial Association)で発表を行った。当該学会は農村社会学・農業社会学の分野では世界最大の学会であり、ここにおいて日本の農商工連携の特徴と課題を論じた報告は初めてであると考えられ、その意義は大変大きいと思われる。発表内容は、審査の結果、口頭発表として許可されたものである。報告ではドイツ、ブラジルなどの研究者から農商工連携についての基礎的な質問が多くなされ、他国での応用可能性についての具体的な質問を受けた。また報告後もアジアの研究者と議論を行う機会を得た。さらに、台湾において2回、研究概要の報告を行うことができた。台湾での報告は、行政関係者も対象に含まれており、研究成果の普及と言う点で大変意義深いと考えられる。 ・また、農産物の付加価値生産やそれと地域社会活性化の結びつきと言う点で先進事例といえるヨーロッパ(ポルトガル・フランス)について知見を得ることができたことも大きな進展であると考える。 ・事業申請書の分析と奈良・千葉での事例研究は、当初の想定以上に進捗しており、特に奈良県の事例については、食と農についての社会学的学術書の一章として執筆を行い、地域再生の観点から農商工連携の意義と課題について、発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
・平成24年度、農商工連携の事業申請書の分析を、代表者だけでなく連携事業者にまで拡大して行ない、また、奈良と房総半島、ヨーロッパの事例などについて知見を深めることができた。それらの知見を交えて、事業申請者へのアンケート調査を実施する予定である。来年度前期に質問項目の最終検討を実施し、8月頃をめどに郵送調査のかたちで実施する計画である。異業種連携という実践がどういった社会的背景や機会で可能となったのかについて、全国の事例から一般的傾向や類型を明らかにしていきたい。また、質問紙調査対象は連携締結後少なくとも1年をへたものを対象とするため、実際に連携開始後の現状、課題なども明らかにすることを目指していく。 ・こうした知見は、データに基づいた、専門分野の異なる研究分担者との議論のなかでさらに深め、分析していきたい。それは秋頃を予定している。 ・平成23年度、24年度の研究によって、農商工連携や六次産業化の「成功事例」の多様性が明らかになってきた。優良事例の質的調査を継続し、そうした多様性の背後にある共通条件を明らかにしていきたい。その際、連携を促したコーディネータ的第三者の存在についても留意して調査を進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
・平成24年度農商工連携事業者へのアンケート調査を行わなかったので、その分の費用を繰越し、平成25年度に計上する予定である。 ・上記アンケートの分析結果と知見を整理し、農商工連携関係者用に編集し、当事者への知見の還元をはかりたい。そのための費用を計上する予定である。 ・農商工連携の優良事例について、インタビュー調査を継続するための費用を計上する予定である。 ・分担者との打ち合わせ、学会などでの知見収集などの費用を計上する予定である。
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