研究課題/領域番号 |
23530671
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
坪谷 美欧子 横浜市立大学, 都市社会文化研究科, 准教授 (80363795)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際移民 / 中国人移民 / 滞在者 / アイデンティティ |
研究概要 |
中国人移住者のようなトランスナショナルな移住者たちの多様化するライフスタイルを踏まえると、かれらの権利保障に向けて「新たな市民権」という観点から以下の二点の課題を指摘できる。(1)トランスナショナルな移住者たちと新たな「市民権」の検討移 民に対しても二重国籍または二重市民権を許容する国もみられているが、従来の国籍だけでは十分ではなく、日本においても実質的な社会の構成員であることにより比重を置いた「新たな市民権」が検討されるべきである。日本における一九九八年の「永住者」在留年数の緩和は、選別的な入国管理を促し日本にとって「好ましい」ニューカマー永住者をカテゴリー化した契機といえ、二〇〇三年には「永住者」の条件がさらに明確化された。申請者の日本とのつながりを実質的に承認していくという意味では、積極的に評価しようとする傾向にある。(2)送り出し国の「拡大コミュニティ」の可能性 多くの自国民を海外へ送り出す国家においては、在外国民との関係維持のために市民権や国籍法を変更し、海外移住者まで本国コミュニティを拡大させるような「ディアスポラ・モデル」もみられる。中国政府としての海外移住者との関わりについては改革・開放後、華僑・華人の経済力をいかに取り込むかということに力が注がれている。また留学生や研究者の帰国後の優遇政策の中には、中国の永住権付与や戸籍変更に関わる政策もあるが、一般的な海外移住者にとって実効性を持つものとはいえない。移民を多く送り出すような地方や農村部に行くほど、中国人にとって海外移住はいまだ「特権化」している。現状では「資源」を持たない者からの異議申し立てなどは見られないが、海外移住に際して正当な権利の保障にも公正さが求められなくてはいけない。送出国として、海外移住者の経済力を利用するだけでなく、かれらの政治的・社会的権利についての承認は今後の中国の課題となるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の「仮説1」である出身地域や世代の違いによる「永続的ソジョナー」アイデンティティの変容留学や移住への意味づけ、とくに「日本人」境界の捉え方、移住者コミュニティの形成、いかに帰国を「成功」させるのかなどについて、中国人移住者の出身地域(主に東北部/南部/大都市部)およびコーホートの違いによる分析を試みるために文献等にもとづき仮説設定を行った。 上記の課題にアプローチするにあたって、本研究ではまず中国人移住者を対象に中国語によるアンケート調査の準備を進めている。アンケート調査の主な調査項目としては、出身地域・来日前の職業・来日方法・来日目的・滞在予定・日本での就学・就業状況・移住者コミュニティとの関わり・帰国に関する具体的準備等である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究実施計画 24年度は、中国人移民の日本への移住をめぐる送り出しプロセス及び送り出し家族や地域への影響について研究を行う計画だったが、7月より産前産後の休暇および11月からは半年間育児休業を取得する予定となった。そのため、24年度は研究可能な期間が約3ヶ月間となってしまうこと、とくに当初予定していた中国東北地方出身移民の送り出し地域レベルにおける経済的・社会的影響について、中国大連・ハルビン等における聞き取り調査が実施できなくなってしまったため、本年度の研究実施計画を変更し当初の予定より請求額も減額した。平成25年度の研究実施計画 24年度に実施予定だった移民の送り出し地域レベルにおける経済的・社会的影響についての中国東北部での現地調査を行う。また日本への移住者のいわば「予備軍」とも言える中国における日本語人材について、日本語教育を行う高校・大学やIT・アウトソーシングを中心とした日系企業、中国の朝鮮族等を対象として、大連・長春において調査を行う。 本研究の最終年度にあたるため、仮説を検証し、中国人移住者による国際移民システムの精緻化を完成させる予定ではあるが、24年度の産休および育休により研究を実施できなかった部分については、「期間延長承認届」を提出し本研究を遂行させる所存である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定していた質問紙調査および中国東北地方出身移民の送り出し地域レベルにおける経済的・社会的影響についての中国大連・ハルビン等における聞き取り調査が困難になってしまった。 そのため次年度については、今年度の繰り越し分も含め、いままで収集できているデータの分析および質問紙調査に重点を置いて研究を遂行する予定である。具体的には、質問紙調査印刷・送付・回収、統計解析ソフトSPSS、中国語文献データベースであるCNKI等に対して、研究費を使用予定である。また数名の専門家にも本学に来校していもらい、専門的な知識の提供も期待している。
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