研究課題/領域番号 |
23530671
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
坪谷 美欧子 横浜市立大学, 都市社会文化研究科, 准教授 (80363795)
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キーワード | 国際移民 / 中国人移民 / 滞在者 / アイデンティティ |
研究概要 |
(1)中国人移住者によるトランスナショナルな空間の変容 移動手段や通信手段が発達するなか、移民たちのホスト社会への定着状況のみをみているだけでは十分とはいえない。一見、ホスト社会での滞在の長期化や定住化との矛盾を伴うかもしれないが、そこで起きている変化も視野に入れた考察が海外移住者を理解する際不可欠である。海外移住者が持つトランスナショナルな社会的な場・空間の形成により、越境的ネットワーク上の一つのコミュニティが二つの拠点を両側に持つことがみられる。さらにトランスナショナルな社会空間が形成されると、送金、家族の世話、出身地への貢献等を含んだ現代国際移民による新たな適応方式が現れ、送り出し社会と受け入れ社会に対して新たな適応様式と戦略が展開される。さらに同時に二国、もしくはそれ以上の国民国家とつながる関係のネットワークのなかに埋め込まれた主観やアイデンティティの出現がその特徴と言えよう。 (2)新たな留学生層 来日中国人については、とくに近年増加が顕著である80年代以降の出生者による中国人移住者の広がりについて注目できる。出国の自由が一部認められるようになった80年代からの中国人の日本留学生については、母国への貢献の意思や帰国指向を持ちながらも、仕事や子の教育等の理由から滞日を延ばす「永続的ソジョナー」呼ばれる者が少なくない。また大戦の被害や日本との経済格差から、日本留学に複雑な感情を抱く者も少なくなかった。しかし、現代の若者は、両親も日本留学経験者だったり、仕事で日本との関係を持つ者も非常に多い。かれらは子どもの頃からマンガやアニメなどを通して日本語や日本文化に親しんでおり、日本行きはごく自然なことととらえている。その分、以前の世代のような漠然とした海外生活へのあこがれや、国家建設のための先進的知識・技術の吸収といった使命感はあまりみられない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
24年度は中国人移民の日本への移住を巡る送り出しプロセス及び送り出し家族や地域への影響について研究を行う予定だったが、7月より産前産後の休暇および11月からは半年間育児休業を取得したため、当該年度の研究可能な期間は約3ヶ月間のみとなってしまった。とくに当初予定していた中国東北地方出身移民の送り出し地域における経済的・社会的影響について、中国大連、ハルビン等における聞き取り調査が実施できなくなってしまった。 以上の予算繰り越し事由が発生したため、「産前産後の休暇又は育児休業の取得に伴う科学研究費助成事業期間延長」の申請を行い、研究期間を一年延長した上で本研究を遂行させる所存である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究実施計画 24年度に実施予定だった移民の送り出し地域レベルにおける経済的・社会的影響についての中国東北地方での現地調査を予定している。中国東北部においては、移民の送り出しに関わるビジネスや親族ネットワーク、そして日本からの送金、親族の扶養など家族や世帯レベルでのネットワークなど、日本への移住という行為がどのように生活世界に影響を及ぼしているのか検証する必要がある。日本移住者から中国東北地方の家族等への送金の額も、決して少なくないとみられている。留学経験者による帰国後の就職斡旋や起業パークの創設、地元への再投資や起業等のなどの帰国優遇政策についても、東北地方の各都市で活発になりつつある。こうした移民の送り出し地域レベルにおける経済的・社会的影響について、本研究では明らかにしたい。 具体的には、①海外留学・労務斡旋会社、②渡日経験者とその家族へのインタビュー、②帰国後の優遇政策を実施する機関などへの聞き取り調査を予定している。また日本への移住者のいわば「予備軍」とも言える中国における日本語人材について、日本語教育を行う高校・大学やIT・アウトソーシングを中心とした日系企業、中国の朝鮮族等を対象として、大連・長春・ハルビンにおいて調査を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度はこれまで収集したデータの分析のほか、おもに質問紙調査に重点を置いて研究を進める。質問紙調査印刷・送付・回収、中国語文献データベースであるCNKIなどについて研究費を使用する予定である。 また、中国東北地方出身移民の送り出し地域における経済的・社会的影響については、中国大連・長春・ハルビン等における聞き取り調査を実施するため、合計2-3週間程度の渡航費・滞在費にもあてる予定である。
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