研究課題/領域番号 |
23530676
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
山本 努 県立広島大学, 経営情報学部, 教授 (60174801)
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キーワード | 過疎 / 農山村 / 人口減少 / Uターン / 高齢者 / 定住 |
研究概要 |
前年度の研究によって過疎の新しい段階を示した。すなわち、過疎の進んだ自治体では2005年頃から高齢者人口の減少も見られるようになり、地域人口の全年齢階層での総体的後退が現れてきた。それを本研究では、「高齢者人口減少型過疎」と呼んだが、このような現状規定は従来の過疎農山村研究にはない新しいものである。 このようなマクロな現状認識を持って、中国山地の過疎山村地域において聞き取り調査(世帯調査)、および、調査票による大量調査を行った。聞き取り(世帯)調査は二つの集落(それぞれ19世帯、12世帯)の29世帯で実施した。聞き取り調査の項目は定住条件全般だが、医療、福祉、交通、家族、生きがいなどにやや重点をおいている。 これらの聞き取り調査と並行して、調査票大量調査の準備を進めた。調査票の作成、事前予備調査(プレ・サーベイ)、調査票印刷、調査票配布、調査票回収、データ入力、データ集計というところまでは、現時点で終了している。調査は2012年6月、7月、広島県のK地区(上記の二集落含む中国山地山村地域)の20歳以上全住民(695人)を対象に実施した。悉皆の郵送調査法で、有効回答234人、回収率34%である。 現時点では調査データの基礎集計が終わった段階にとどまるが、そこからでも地域の定住課題が示されている。すなわち、医療、交通の問題が大きく、年齢の上昇ととにも、通院等に家族や子供の援助が必要になり、それにともなう、不便感の増大が見られる。しかし、他方で、高齢者を含めて地域住民の定住意思や地域愛着は強い。 本研究が主張する「高齢者人口減少型過疎」とは、高齢者を地域で支えることの困難を含意する概念でもある。その実相をさらにデータで示す必要があるが、現時点では、そのための調査研究が進行している段階といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は前年度に準備した種々の作業(=地域や行政などへの種々の折衝や依頼、地域や行政の種々の資料の入手、読み込み、地域の予備的な調査など)を土台にして、地域調査(聞き取り調査、および、調査票調査)を行うことが目標であった。したがって、それが遂行できたことから判断すれば、「おおむね順調に進行している」と考えていいだろう。 地域の種々の団体(町内会、婦人会、高齢者の会、地域おこしの会など)についての聞き取りなどで追加すべき点がなくはないが、これも、調査の進行に応じて出てくる課題であるので、問題はないだろう(調査が順調に進んできたことによるものであるので、むしろ、好ましいことだと判断している)。 さらには、調査票データの基礎集計が終わった時点で、調査対象のK地区、および、調査で助力をいただいた広島市役所にて、調査結果の報告会を開催できた(2013年、3月11日、K地区の公民館にて、3月22日、広島市中区役所第二会議室にて)。ここでの意見交換は次年度以降のデータ分析、論文執筆などにおおいに有益であった。加えて、学会報告、論文執筆なども後の記載のとおりであり、現時点でも一応の学的成果があがっていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後、調査票調査のデータ分析、および、それに基づく論文作成、学会報告などを予定している。そのためには、地域での追加調査も昨年度に引き続き行うが、問題意識としては、前記の「高齢者人口減少型過疎」という現状認識に対応した、高齢者の生活構造(生活問題)分析が非常に重要な焦点になってこよう。加えて、地域の中核となることが期待される中若年層の生活構造、地域意識、定住経歴なども分析されるべき項目に含まれる見込みである。 ただし、これらの問題にアプローチするには、調査票による大量調査のみでは限界があるので、質的な聞き取り調査(事例調査)を加えたく思っている。具体的には、地域の種々の団体(町内会、婦人会、高齢者の会、地域おこしの会など)についての追加的な聞き取りなどが加わってくる見込みである。 加えて、先行文献の収集、解読、検討を行う時期にもさしかかっている。各地の大学、研究機関、行政、地域の団体などでの資料収集も必要になるものと見込まれる。 なお、本研究のサブタイトルには「「限界集落論」批判」とある。したがって、限界集落論(概念)についての論文執筆が是非、必要である。これについては、次年度の学会(西日本社会学会、琉球大学)で報告する予定であり、それに基づく論文執筆が予定されている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は調査データの分析、および、追加的な調査の年度であるので、それに関わる研究費の執行が見込まれている。データの分析には量的データ分析と質的データ分析の両者を含むが、しかるべき専門家や専門業者からの支援や助言も必要になる可能性が大きい。これらの人々との研究打ち合わせなどが重要になる。また、必要に応じて、統計解析などのソフトの購入、それを動かすパソコン関連機器の購入などが必要になるかもしれない。また、追加調査は調査の進行に応じて、種々の(場合によっては予期せぬ重要な)課題がでてくるものと思われるので、必要に応じて、柔軟に対処する必要がある。具体的には、上述の地域団体(今後の推進方策の欄、参照)以外では、医療機関、福祉関係の諸団体、地元のバス・タクシー運営団体、会社などが重要な調査対象になる見込みである。 なお、前年度までの成果を土台にして、可能な部分から、学会で報告することを計画している。現時点では、西日本社会学会(5月、琉球大学)、日本社会分析学会(8月、広島大学)での報告が予定されている(今後、さらに可能ならば、追加の学会報告を行いたい)。加えて、可能な範囲から調査報告や論文を作成していく計画である。また、本研究を含んだ書籍の刊行についても計画を進めたく思う。
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