(1)昨今の過疎農山村研究では、限界集落(あるいは限界自治体)論の影響力が強く、地域の消滅が過度に強調される。しかし、そればかりでは過疎は語れない。本研究では地域調査の方法で、過疎農山村地域住民の定住経歴、定住意識、生活構造などにアプローチした。 (2)それによって、限界集落論的パラダイムでは見えてこない、土着的生活構造・人口供給構造の持続と有効性を示すことを試みた。これによって、限界集落論とは異なる、もうひとつの過疎農山村像を示そうとした。 (3)具体的には、過疎の進んだ中国地方の山村集落(当該地区には無医地区も含む)A地区を選んで、三つの調査が行われた。1.調査票による大量調査、2.集落での世帯単位の聞き取り生活構造調査、3、定住経歴の生活史・生活構造調査、がそれである。調査の実査は2011年から2012年にかけてであるが、追加・補充の調査などを含めると、研究の全期間、調査は継続された。調査の焦点は、1.人口Uターンなどの定住経歴、2.過疎地域住民(特に高齢者)の生きがいと生活構造、3.過疎地域における通院の現状と交通行動の三点である。 (4)人口Uターンについては、以前に実施した調査との比較も含めて分析したが、今回調査でも従来同様、少なからぬ人口還流を確認できた。また、高齢者の生きがいを支える地域参加の仕組み、農業の意味、電話の利用、家族との関係などについて、一定の意味ある知見を得た。さらに通院行動には、地域住民の自助力、互助力は一定程度、有効に発揮されており、「過疎地域=交通不便」の図式は今後、ある程度再考の余地があるように思われた。
|