研究課題/領域番号 |
23530683
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
李 妍炎 駒澤大学, 文学部, 准教授 (90348889)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 中国 / 市民社会 / NGO / NPO / 日中交流 / ソーシャル・イノベーション |
研究概要 |
平成23年度は、日中両国の環境教育分野と高齢者分野におけるソーシャル・イノベーションの事例の把握、今後連携が可能になると思われる事例のピックアップ、キーパーソンのリストアップ、両国の両分野におけるソーシャル・イノベーション関連の制度・政策、経緯、文化的特徴を調べることを目的とした。具体的には事例データベースの作成、キーパーソンへのインタビュー、文献のサーベイや専門家インタビューを行った。 成果として分かったことは、第1に、両国の市民社会組織の間で連携が可能となるための条件として、中国の組織の場合は、相手団体に実用性のある技術やノウハウを持っているかどうか、相手団体のリーダーの人間性、人格的な魅力を重要視する傾向が見られた。日本の組織の場合は、主にリーダーの中国に対する興味関心が決定的な要因となる場合が多い。今後、両国の市民社会組織の連携を仕掛けていく際に、この発見は方向性を示唆してくれる。 第2に、両国の市民社会組織のリーダーは、互いに対して直接的な情報源をほとんど持っておらず、マスメディアから相手国の情報を得ていることが分かった。中国の市民社会組織リーダーは、社会や世界について広い視野を持っている人が多いため、メディア報道に対して疑問視する傾向が強い。日本の場合は、直接的に中国経験を持っている人を除けば、メディアによる情報に同調する傾向が見られた。この点はますます今後直接的につながりを持つことの重要性を立証したといえる。 最後に、両国の上記二分野のイノベーション促進に繋がる政策・制度については、日本ではいくつかの制度ができているものの、全体としてのビジョン、体系化の点で言うと整合性に欠ける。中国では第12次五ヶ年計画においてイノベーションが国家政策として推進の対象となっており、今後、政策の具体化の過程に日本の経験と教訓が大いに示唆を与えうると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調だといえるが、東日本大震災の発生により、被災地で活躍する環境教育分野の市民社会組織の調査を本研究に組み入れた。その過程において、中国の災害救援分野の市民活動関係者と繋がるようになり、日中間で災害救援分野の民間交流プロジェクトの企画に携わった(2011年12月に国際交流基金の助成を得て、交流プロジェクトを実施)。これらのプロジェクトに時間とエネルギーを注いだ分、両国の環境教育と高齢者分野の市民社会組織のキーパーソンへのインタビュー調査、両国のこの二分野におけるイノベーションを促進するような政策・制度、文化的特徴のサーベイ(特に専門家インタビュー)は、当初想定していた目標には届かず、まだ不十分である。
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今後の研究の推進方策 |
1.キーパーソン調査は、インタビューだけではなく、一部質問紙調査を取り入れる。平成23年度はインタビューを中心に行ったが、出張の日数が限られてしまうため、件数をこなすことができなかった。24年度は質問紙を作成し、Eメールで調査対象者の件数を効果的に増やしたい。2.実践的研究の拠点となる「日中市民社会ネットワーク」において、環境教育分野と高齢者分野における具体的な日中連携プロジェクトが開始できるように、助成機関や関係者の力を借りる。環境教育分野については現在JICAに申請中の案件があり、高齢者分野については、一般社団法人コミュニティネットワーク協会との連携について話し合っている最中である。いずれも実現する見込みである。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度はおよそ13万円あまりの研究費を次年度に残したが、主に事例データベースの補充と更新に必要な謝金として用いる予定。不足する分は、平成24年度の補助金から支出する予定である。 次年度の研究費のほとんどは国内と国外での調査旅費に用いる予定である。国外調査2-3回(1回につき15-30万円程度)、国内調査4-5回を予定している(1回につき6-10万円程度)。国外調査は、1回目は専門家インタビューを中心に実施する予定であり、2-3回目は日中市民社会ネットワーク主催の交流事業(ないし準備するための訪問)に同行し、参与観察を行う予定である。国内調査の2回分は東北被災地における自然学校ネットワークによる被災地復興事業の調査、残りの2-3回分は、日中市民社会ネットワーク主催交流事業への参加、学会への参加、研究の打ち合わせに用いる。
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