研究課題/領域番号 |
23530683
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
李 妍炎 駒澤大学, 文学部, 教授 (90348889)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 中国 / 日中交流 / 環境教育 / 自然学校 / 復興支援 / 被災地ボランティア |
研究実績の概要 |
平成26年度は引き続き日中間で環境教育分野のキーパーソンによる交流事業を通じて、中国国内で自然学校運動を仕掛け、盛り上げていくプロジェクトに参与しつつ、フィールドワークを行った。同時に、自然学校が東北の被災地で継続的に行ってきた支援活動にも引き続き注目し、イノベーションへとつながる要素について実地調査を行った。 日中の間で展開してきた「自然学校」をキーワードとした交流事業は、JICAの支援を得て2年目を迎え、人材育成と中国国内でのネットワーキングを通して、100名以上の中心メンバーが生まれた。平成26年9月に福建省の厦門と雲南省の大理で開催された中国全国自然学校ネットワーキング会議には合計380名超の参加者がいた。各地で日本の自然学校から吸収し、学んだ関係者たちが自然学校を名乗り、運営をはじめている。さらに平成27年3月にCSネットが上海で開催した「東アジア地球市民村」にも参加者が300名以上に達した。そこでは環境教育分野のキーパーソンだけではなく、日本から「スローライフ」の思想と実践の中心人物20名ほどが参加し、昨年の「半農半X」思想に引き続き、上海の会場で大きな共感を呼び、今後も地球市民村の活動が自発的・自律的に継続できるように、日中のキーパーソンの連携が確認された。これらの交流から生まれたのは、単にイベントという一時的なものではなく、思想的な共鳴、その後の実践への促進、そして継続的な連携への意欲と取り組みである。これらの動きをさらに促進するために、平成26年度は『私たちの自然学校をつくろう』と題する本の編集執筆、翻訳に力を注いだ。また、中国における自然教育分野の新たな動向を雑誌のコラム、講演会、勉強会などで日本の関係者に紹介している。 被災地における自然学校ならではの復興支援活動についても、現段階の成果を論文にまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
環境教育分野における交流事業を対象としたフィールドワークは、事業そのものが予想を超える規模とスピードで展開を見せ、当初想定していた「日本側のキーパーソンが中国側に良い影響を与える」ことが明白に見られただけではなく、中国社会で従来になかった「自然学校」の分野が形成され、さらに、日中間で環境教育分野の継続的な連携と交流の仕組みができつつある。日中の国家関係が冷え込む中、適切な社会的課題と時代のタイミング、一定規模の担い手(の層)、適切な仲介者とプロデューサー、日本の市民社会における適切な資源があれば、「国家」の枠組みに囚われない独自で効果的な日中の「市民関係」が可能であることが明白となった。「交流」と「ソーシャル・イノベーション」の間のつながりが見えてきたという意味で、この研究はおおむね順調に進展しているといえる。 高齢化社会分野でのソーシャル・イノベーションを促進するための日中草の根交流は、平成26年度も引き続き可能性を探った。一般社団法人コミュニティ・ネットによる中国事業をケースとして取り上げる予定であったが、その事業はまだ始まったばかりで、思ったほどの進展が得られていない。環境教育分野と異なり、中国国内では社会的課題として重要視されているものの、市民社会の領域に位置づけられる高齢者分野の市民活動はまだごく少数だと言わざるを得ない。 しかし中国側のニーズが急速に高まっており、平成27年度からは協力団体であるCSネットでは具体的なプロジェクトが始動すると思われる。「日本型ケアの精神」をキーワードに、「人の育成」という切口から日中交流を仕掛けていき、イノベーションを引き起こす可能性を問うっていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
1.環境教育分野は、自然学校をキーワードとする交流事業の参与観察を継続すると同時に、CSネットが実施する東アジア地球市民村の事業にも携わり、昨年度の研究成果で提起した「国家関係から市民関係へ」というビジョンの可能性を、実践の現場から見出していきたい。 2.高齢化社会分野については、トヨタ財団が新たに交流事業の助成を公募しており、CSネットに協力し、そのプロジェクトに応募する予定である。採用されれば、プロジェクトの実施に参加し、参与観察などのフィールドワークを行う。 3.環境教育分野の人脈を通して東北被災地での調査を実施してきたが、そこで出会った社会的企業アミタグループによるソーシャル・イノベーション事業に対して、できればさらなるケーススタディを行いたい。 4.中国社会におけるソーシャル・イノベーションを考えるために、「民による公共」が可能かどうかについて、体系的に考察する必要性を認識している。理論的サーベイを進め、できれば書籍にまとめていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
端数として残った。
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次年度使用額の使用計画 |
旅費の一部として使いたい。
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備考 |
研究の協力団体CSネットのサイト。研究で関わったプロジェクトに関する記事もある。
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