本年度は、研究の最終年度として、1.インドネシア・バリ島と2.日本の農山漁村で補充調査を実施し、これまでの研究成果を集約し、公表した。その結果、以下のことが明らかにされた。1.インドネシア・バリ島について:世界遺産登録後のタバナン県ジャティルイ村では、観光客の著しい増加し、ゴミの処分やトイレの設置、道路の拡張や駐車場の整備が必要になっている。もっとも重要な課題は、入場料収入の徴収方法や配分をめぐって、ジャティルイ村のなかの2つの慣習村のあいだの軋轢が顕在化しつつあることである。 2.日本の農山漁村について:(1)宮城県の離島漁村の調査から、東日本大震災後、過疎化と少子高齢化の傾向に拍車がかかり、10年後、20年後に起こると考えられていたことが前倒しして現れていることが明らかにされた。震災からの「復興」を考えるに際して、震災前からの問題の要因について考え、これらの解決をはからない限り、本当の意味での復興はありえないことが明らかにされた。(2)山形県庄内地方の平場農村の調査から、農業の担い手の減少と高齢化が著しく、65才未満の担い手は、各集落で1~2名であるにもかかわらず、集落営農が成功している地区が少ないことが明らかにされた。 1.インドネシア・バリ島と2.日本の事例をとおして、近年のアジア村落の著しい変貌の諸相が示され、村落の共同性が変化していることが明らかになった。さらに、こうした変動のなかでも連続している農村家族や農村コミュニティの生活保障組織としての特質に目を向ける必要が、今後の研究課題として示された。
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