研究課題/領域番号 |
23530686
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研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
澤口 恵一 大正大学, 人間学部, 准教授 (50338597)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | イタリア / ライフコース / コック / キャリア形成 / 職業教育 / 外国人労働者 / 産業史 / 労働史 |
研究概要 |
(1)イタリアの地域別日本人在住者の把握、外国人労働者に関する法令と関連文献の収集、最新のイタリア国内のレストラン情報の収集を行った。これにより日本人コックの就業が年々困難になっている状況が確認された。日本人在住者は北部に多いことが確認された。また国内におけるもっとも古いイタリア料理店としてしられる「イタリア軒」等についてリサーチを行い戦後から現在までの通史として把握することができた。 (2)国内では今年度はミシュランで高い評価を得た店のシェフを勤めた人物3人、旧ENALC(国立ホテル学校)出身者1名、この他イタリア料理研修経験者15人から聞き取りを行った。これにより、研修制度の運営実態、日本人コックの就労環境、パーソナルネットワーク等が把握できた。ローマの料理店を受け入れ先とする日本人コック受け入れルートの存在、中部の日本人間コックのネットワークが北部と比べて弱いことが確認された。 (3)イタリア現地の研修施設視察は、渡航可能な日程の都合上実施することはできていない。関係者への聞き取り調査については、渡航40年になる日本人経営者からライフヒストリー・経営者からみた雇用制度についての聞き取りを行った。また上記ENALC関係者に聞き取りをすることができた。またこれまでに把握していなかった事業者の研修制度について把握することができた。また現地のイタリア人シェフ2人に日本人コックについての印象を聞き取りすることができた。 (4)現地研修者、現地就業者への聞き取り調査は、9月2月3月に実施した。対象者は北部が中心であるが、2月に行ったシチリアでのインタビューにより、外国人労働者の取り締まりの実態、日本人コック・ネットワークの密度に南北で大きな相違があることが確認された。また開業経験者へのインタビューを行ったことで、現地での日本人による開業が困難である状況などが把握できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イタリア料理産業史を再構成するうえで、今年度は日伊双方のキーパーソンから重要な証言を得ることができた。とりわけイタリアにおいて40年以上就業している男性の経営者の証言は、日本人コックの海外の歴史、調理師専門学校によるローマ・ルートの開拓、現地の日本人会の活動の面で重要である。また、70年前後においてイタリアで働いた男性経営者からは、凋落期のローマの国立職業訓練学校ENALCの実態を知ることができた。そして関西の草分け的コックからは、ENALCの校長であり70年代に日本で活躍したイタリア人シェフの情報を得ることができた。 また研修経験者やイタリアでの長期就業経験者への聞き取りにより、独自の能力形成システムの発展、技術習得の過程について実態を把握することができた。いわゆる一流のシェフから、まったく未経験のままにイタリアに渡った人物まで多角的な意見を聞けたことが大きな成果といえる。その成果の一部は、論文「日本におけるイタリア料理の産業とコックのライフ・ヒストリー研究:その序論的考察」として発表することができた。 日本人コックによる同業者ネットワークおよび日伊の関係者間のネットワークについても、従来の聞き取りに加えて、新たなキーパーソンを数名把握することができた。日本イタリアでのインタビューも質量ともに、計画以上のペースで進行している。 しかしながら、現地視察については、訪問可能な時期の折り合いと関係者との接触が図れず予定どおりに進行することができなかった。この点については次年度以降の課題として残されたため、上記の評価としている。
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今後の研究の推進方策 |
ひきつづき日本人コックからの聞き取りを日伊で行いつつ、地域差と年代差を軸とした分析を行っていく。今年度特に重点的に行うべき課題としては、第一に、国内での課題は80年代に渡航した日本人コックが、イタリア人シェフあるいはレストランといかに交流をもち、その後も継続的に日本人コックを送り込んでいったのか、詳細な実例を積み上げて明らかにしていくことである。また関西を中心とする地方の日本人コックのネットワークについても、インタビューを重点的に実施し、あきらかにしていきたい。第二に、イタリアでの調査を2度に渡り実施し、長期就業者(とりわけ中部、南部)、開業経験者、女性(とりわけ現地人と結婚をしている)、若くビザの取得に問題を抱えているコックから聞き取りを行いたい。第三に、インタビューや収集した文献資料が相当数に上るため、インデックスを作成し、知り得た事実について分析を進めていく。さらに2012年4月にはローマおよびピエモンテ州で、震災のための日本人コックによるフェアが実施された。こうしたフェアを実行した日本人コックへのインタビューも予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度と同様に海外、地方でのインタビューを軸として研究が展開されていく。研究費の使途の大部分はその旅費として当てられる。具体的には秋(9月を予定)と冬(2月を予定)のイタリアにおけるインタビュー、および視察にもっとも多くの支出が予定されている。この他、今年度は地方出張として、京都・大阪、福岡等の地方都市でのインタビューが予定されている。これにともなう、資料の整理、維持のための費用として、あるいはインタビューの謝礼として一部の資金は使用される。 前年度と異なる点は、データベースの作成およびインタビュー資料の分析のために研究費の一部が使用されることである。独自に収集した雑誌記事のデータベース化、現地のレストランのデータベース化、対象者のキャリア・データベースの作成に、ソフトウェア購入費入力作業のための謝金を支出することが予定される。
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